[相続のお話]寄与分を主張する長女の涙

寄与分を主張する長女の涙

山本久美子(54歳)は、十年間、仕事を辞めて母親の在宅介護を一人で続けてきた。母は認知症と骨折で要介護状態になり、施設に入れることも考えたが、「家にいたい」という母の言葉が忘れられず、久美子は自分が引き受けることにした。入浴の介助、食事の準備、医療機関への付き添い——毎日の生活はケアで埋め尽くされていた。仕事を辞めたことで、収入も将来のキャリアも失った。それでも、久美子は後悔していなかった。

    母が亡くなり、遺産分割の話し合いが始まった。相続人は久美子と、東京に暮らす弟の修(50歳)、大阪に暮らす妹の恵(47歳)の三人だ。遺産は実家の土地と建物、預貯金が合わせて約三千万円。修と恵は「法律通り三等分しよう」と言った。久美子は思わず涙をこぼした。十年間、自分の人生を犠牲にしてきたのに、それが何も評価されないのかという悲しさと怒りが込み上げた。

    久美子は弁護士に相談した。弁護士から「寄与分」という制度を教えてもらった。「寄与分とは、相続人の一人が被相続人の財産の維持や増加に特別な貢献をした場合、その貢献分を相続分に上乗せできる制度です。療養看護については、プロに頼んだ場合の費用相当額を基準に算定します」

    「具体的にはどう計算するんですか」と久美子は聞いた。
「たとえば久美子さんが行ったケアを専門家(ホームヘルパーなど)に依頼した場合、一日あたりいくらかを試算します。それに介護の実績日数と、療養看護の必要性の程度を示す係数を掛け合わせます。ただし、通常の親族間の扶養義務の範囲を超えた貢献でなければなりません。同居して炊事・洗濯をする程度では認められにくいです」

    「どうやって証明するんですか」「介護日誌、医療費の領収書、ヘルパーの利用記録、医師や看護師の意見書などが証拠になります。久美子さんが日々の介護内容を記録していたかどうかが、寄与分の認定に大きく影響します。記録が少ない場合でも、医療機関の記録や介護保険の認定証などを組み合わせて立証することができます」

    久美子には、ほぼ毎日つけていた介護日誌があった。「お母さんのこと、忘れたくなくて」と書き続けていたものだ。弁護士はその日誌を証拠として整理し、医師の意見書と合わせて寄与分の主張を組み立てた。

    「寄与分は相続人全員の合意がなければ認められないと聞きましたが」と久美子は確認した。
「そうです。まずは相続人間の協議で合意することが前提です。合意できない場合は、家庭裁判所の遺産分割調停の中で主張することになります。調停でも解決しなければ審判に移行します。時間はかかりますが、きちんと権利を主張することが大切です」

    修と恵に寄与分の説明をしたとき、二人は最初に戸惑った。「法律にそんな制度があるなら仕方ない」と修は言った。恵も「久美子が一番大変だったのはわかってる」と認めた。専門家を交えた話し合いの末、寄与分として五百万円を久美子の相続分に上乗せすることで合意が成立した。

    介護を担う相続人は多い。しかし、その貢献が正当に評価されるためには、日々の記録が欠かせない。
介護日誌、領収書、医療記録——地味な積み重ねが、いざというときの大きな力になる。寄与分制度を知っておくことが、介護する人を守ることにつながる。

この記事で学べること




介護などで特別な貢献をした相続人は「寄与分」として相続分に上乗せを主張できます。療養看護はプロに依頼した場合の費用相当額で算定します。介護日誌・医療記録・領収書が証拠になります。日々の記録が大切です。

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