家族信託の開始時期は?

家族信託の効力発生時期についてですが、将来的に必要な制度であることは理解しつつも、今は判断能力があるので、まだ効力を発生させたくないという要望を受け、導入を見送りされてしまうケースがあります。
①原則、家族信託の効力は契約締結時に原則効力が生じる
家族信託の効力が開始するのは原則、委託者と受託者間における信託契約締結時点です(信託法第4条)。

将来の財産管理を目的として家族信託を導入した場合に、信託契約時点から受託者による財産管理がスタートします。
信託契約後に、不動産については信託登記、金融資産については委託者の個人口座から受託者名義の管理口座に送金又は移管します。これ以降は委託者名義ではなく受託者名義で財産管理が行われるため、現時点から財産管理を任せることから、委託者側が導入を躊躇していまうというケースがおこります。

②信託契約に始期を設定する
信託法では信託の効力発生時期を、始期又は条件を設定することでコントロールが可能です。(信託法第4条)
始期とは将来到来することが確実な事実であり、法律行為の効力が発生する期限を指します。契約書において始期を定めることで効力発生時期を契約締結時ではなく始期の到来時に変更できます。
具体的には、信託財産がアパートなどの場合、信託契約が月中となってしまうと、委託者の所有期間と受託者の管理期間に応じて家賃の日割り計算を行うなどの煩雑さがおきます。そこで、契約日は適時おこなうものの、信託の効力発生時期を●年1月1日とさだめることで対応が可能です。

③信託契約に停止条件を設定する
停止条件とは、将来発生することが不確実な事実を契約等の効力の発生要件とする場合です。停止条件をもりこむことで、効力発生時期を契約締結時ではなく停止条件の条件成就時時に変更できます。

例えば、所有している農地の売買を行う際、農地法所定の許可又は届出がないと効力が発生しません。許可等は申請しても必ず得られるものではありません。このような際に「農地法所定の許可を得られたら、農地を売買する」という契約をしたときは、許可の取得が停止条件であり、このような契約を停止条件付売買契約といいます。
また、農地を信託する場合も、売買と同様に農地法所定の許可等が必要なため許可等の取得を停止条件とし、許可が得られたら効力が発生するという信託契約を締結できます。

よくあるケースとして、停止条件を「親が認知症と診断された時」とした場合
結論だけ言えば、委託者である親が「認知症になった時に家族信託契約の効力を発生させることとするのは、法律上問題はありません。しかし、法律的には有効でも、以下問題点があります。

委託者である親の認知症の証明
一般的に認知症になったことは、医師の診断書によって証明されますが、診断書からは「何月何日に認知症を発症した」までは分かりません。診断書は客観的ではありますが、「いつ」の部分について明確性に欠けます。その場合「委託者が認知症になった時」と言う条件は、必ずしも明確で客観的とはいえないため、予期せぬトラブルになる可能性があります。

不動産登記ができなくなる可能性
信託財産に自宅等の不動産がある場合は、家族信託の主たる目的が不動産の管理・処分となり「信託に基づく登記」は必ずすべき手続きです。
この登記は、司法書士が委託者である親から委任を受けて行いますが、家族信託契約書で「委託者が認知症になった時から家族信託の効力を発生させる」という条件の場合、家族信託の契約を締結した時点は、まだ家族信託契約の効力が発生していないため、登記の委任状をもらう事は出来ません。そして、家族信託の効力が発生したタイミングでは、委託者である親は認知症ですのでその書類(委任状)の意味を理解できない意思能力を喪失した方となり、理解頂けなけない場合司法書士は、委任状をもらう事は出来ません。
このように、家族信託契約の効力発生時期を委託者が認知症になった時とすると、不動産の登記が実務上出来なくなる可能性があります。