信託するデメリットを教えてください。

①受託者が横領する可能性
受託者は委託者に変わり財産を管理します、大きな権限を持つため財産を横領するといったことも無いとは言えません。そもそも、受託者を心から信頼できない場合はそもそも家族信託をすべきではないかもしれません。
また、「信託監督人」という立場の者をつけることで受託者を監督してもらうもの一つの手段です。

②成年後見制度でないとできないこともある
家族信託は財産の管理や処分に必要な行為を家族に委ねるものですが、成年後見制度では民法にて身上配慮義務(第858条)が規定されており、本人の財産管理のほか身上監護も念頭におかれている点が大きく異なります。
(身上監護とは被後見人の住居の確保及び生活環境の整備、施設等の入退所の契約、治療や入院等の手続などのことです。)
家族信託でも身上監護に関する内容を含めることも可能ですが、成年後見人は本人の法定代理人として活動するため十分な対応が可能であり、それと比較すると必要な契約等が十分にできない場合があります。

③委託者が、財産の名義を失うことの抵抗感
不動産等の登記において委託者から受託者に名義が変更されます。財産名義が受託者に変わるということは「委託者に判断能力があるうちから利用できる」というメリットではあるものの、自分の財産が自分名義でなくなることに抵抗感を持つ方もおられます。
不動産の登記には、「受益者 氏名」という形で、だれが実質の所有者かが明記されますので、その点は理解していただく必要がございます。

④受託者の選定で揉める可能性
家族信託では、財産を適切に管理・処分できて、かつ信頼できる家族(親族)がいるかどうかが大きなポイントとなります。これが決まらないと中なか先に進みません。
また信頼されて任されたにもかかわらず、財産管理が杜撰な場合、相続人から不満の声が上がる可能性もあります。

⑤節税効果は期待できない
家族信託を行うことによる節税効果はありません。むしろ受益者となった方が財産を取得するわけではないのに税法上「財産を取得した」とみなされるため、むしろ税金面では受益者の負担が大きいといってよいかもしれません。

⑥遺留分侵害額請求(旧:遺留分減殺請求)の対象となる可能性がある
遺留分とは法定相続人について最低限保障された相続財産のことで、これを侵害するような不平等な分配がされた場合には遺留分侵害額請求という請求手続きが可能です。
家族信託の場合も、遺留分侵害額請求の対象となることがあります。ただし信託の性質上、遺留分侵害額請求の対象とならないという見解もあり、意見が分かれる部分でもあります。

例として「受益者:夫 夫の死亡後の第2受益者:妻 妻の死亡後の第3受益者:長男 の場合」
上記の場合、夫の死亡時に妻が取得する受益権と、将来的に長男が取得する受益権が他の相続人の遺留分侵害の対象になる可能性があります。
遺言で他の相続人の遺留分を侵害した場合には、当然遺留分侵害額請求の対象になります。上記の場合、夫の死亡時の相続(第一次相続)については遺留分侵害にあたり、遺留分侵害額請求になるとされています。

以上のように、次代のニーズに沿った形で誕生した制度ですが、問題がないわけではありません。メリット・デメリットを慎重に検討してみてください。