すでに成年後見を利用しています。今から家族信託にできないですか?

結論としては できません。 
家族信託は、あくまで本人が自分で判断できる状態のうちに信頼できる人に管理・処分の権限を与える契約です。よって、成年後見の制度をすでに利用している被後見人様は、家族信託に切り替えることはできません。

後見人がつくと、本人は契約などの法律行為を単独で行うことは出来ません。本人が契約を締結したとしても、原則として取り消すことができるます。(民法9条)
本人に意思能力がない場合は、契約を締結しても「無効」とみなされ、そもそも契約が成立しません(民法3条の2)。後見人が付いている場合、本人は認知症などによって意思能力を失っている状態にあることが多いと考えられます。したがって、本人が家族信託の契約を締結したとしても、意思能力がなく無効となる可能性が非常に高くなります。

一方で、後見人が付いている場合であっても、認められているケースに遺言があります。
それは、本人が能力を一時回復した時点において医師2人以上の立会いのもとにおいて一定の要件を満たせば、遺言を行うことができるとされています(民法973条)。
したがいまして、遺言を活用した遺言信託(信託法3条2号)であれば家族信託もできる可能性はありますが、家族信託自体が内容が複雑で、判断能力を求められるため、現実的には一次的な回復のみで本人が遺言による信託契約を実施することは難しいと言えます。

それではもう一つの方法として 後見人をやめて、家族信託に切り替えることはできるのでしょうか。
成年後見制度の利用をやめるには、家庭裁判所による「後見開始審判の取消し」が必要となります(民法10条)。この取消しをしてもらうためには、後見開始の原因が消滅したことが必要となるため、具体的には本人の認知機能や判断能力が回復した状態である必要があります。
本人の判断能力が保護を必要としない状態に回復したという証明が必要ですので、医者の診断書など、財産管理面など本人が自立してきたことを示す生活上の実例を証明する必要があり、審査には数か月を要します。
本人の能力の回復が認められ、「後見開始審判の取消し」がなされれば、後見が無くなるため家族信託の契約も可能となります。
ただし認知症は回復の見通しが厳しく、進行性の疾患であるため通常は能力が回復することは難しいのが現状です。
そのため成年後見制度は一度開始すると、本人の資産保護を強固にする目的もあり、基本的に途中で中止は不可能だと考えておくべきでしょう。