受託者の義務とは

受託者の義務
 受託者には、幅広い権限を持たせる代わりに、次のような義務が課せられています。
①善管注意義務 ②忠実義務 ③分別管理義務 ④自己執行義務 ⑤公平義務 ⑥帳簿等の作成等、報告・保存の義務 ⑦損失てん補責任

 ①善管注意義務(信託法29条)
受託者は、善良な管理者の注意をもって信託事務を処理しなければなりません。
 ②忠実義務(信託法30条) 受託者は、法令および信託目的に従い、受益者のため忠実に信託事務の処理をしなければなりません。
受益者と受託者との間において、利益が相反・競合する場合は、忠実義務の問題となるため厳しく制限されています。

 ③分別管理義務(信託法34条)
受託者は、信託財産に属する財産と受託者固有財産(受託者の個人財産)や他の信託財産に属する財産とを、分別して管理しなければなりません。
たとえば、信託の登記または登録ができる財産については、登記・登録をする義務が発生します。
ただし、分別管理の方法については信託行為で別段の定めを設けることが許容されているため、その方法により分別管理することになります。ただこの場合でも、信託行為の定めにより信託の登記・登録をする義務を完全に免除することはできません。

信託法は、分別管理の方法について、財産の種別に応じて定めを置いています。(1) 登記・登録をしなければ権利の得喪・変更を第三者に対抗することができない財産については信託の登記・登録
(2) 金銭を除く動産については、信託財産に属する財産と固有財産および他の信託の信託財産に属する財産とを外形上区別することができる状態で保管すること
(3) 金銭および 2.に掲げる財産以外の財産(例えば債権)についてはその計算を明らかにする方法
(4) 法務省令で定める財産については法務省令で定める方法

 ④自己執行義務および信託事務の処理の委託における第三者の選任・監督義務(信託法28条) 受託者は、委託者からの信頼に基づき、信託財産の管理・処分を託されているため、みだりに他人に代行させず、受託者自らが信託事務を遂行することを原則としています。しかし、信託財産・信託目的の多岐化および信託設定の柔軟性により、受託者に課せられた信託事務は専門化・多様化しているため、次の場合は第三者への委託を認めています。 ア. 信託行為に第三者に委託する旨または委託できる旨の定めがある場合 イ. 信託行為に第三者への委託に関する定めがなくても、信託目的に照らして相当であると認められる場合 ウ. 信託行為に第三者委託の禁止の定めがあっても、信託の目的に照らして(受益者の利益に適う事務処理をするために)やむを得ない事由がある場合

 ⑤公平義務(信託法33条)
受託者は受益者が複数いる信託において受益者のために公平にその職務を行わなければなりません。

 ⑥帳簿等の作成等、報告・保存の義務(信託法37条) 受託者は、信託財産に係る帳簿その他の書類を作成しなければなりません。また毎年1回、一定の時期に貸借対照表、損益計算書その他の書類を作成して、その内容について受益者に対して報告しなければなりません。 また、信託に関する書類を、10年間(当該期間内に信託の清算の結了があったときはその日まで)保存しなければなりません。そして、受益者の請求に応じて信託に関する書類を閲覧させなければなりません。

 ⑦損失てん補責任(信託法40条) 受託者がその任務を怠ったことにより、信託財産に損失が生じた場合または変更が生じた場合、受益者の請求により、受託者は、損失のてん補または原状回復について責任を負います。