『生前に墓地・仏壇を購入』相続税を賢く節税するタイミング
田村義雄は七十八歳。数年前に妻を亡くし、今は元気に一人暮らしをしている。財産は自宅と預貯金などを合わせて、約一億円。相続人は、長男の俊樹と長女の由美の二人だ。義雄の気がかりは、郷里にある先祖代々の墓だった。遠方で、子どもたちが墓参りに行くのも大変なため、墓じまいをして、近くの霊園に新しい墓を建てたいと考えていた。
そこで義雄は、俊樹と一緒に税理士のもとを訪ねた。相続税の見通しを相談するためだ。税理士は、財産の一覧をもとに、試算を示した。法定相続人は二人なので、基礎控除は四千二百万円。課税対象は五千八百万円となり、相続税の総額は約七百七十万円。義雄は、顔をしかめた。「やはり、そんなにかかるのか」。子どもたちに、重い負担を残したくはなかった。
税理士は、続けて言った。「実は、お墓や仏壇には、相続税がかからないルールがあります。墓地、墓石、仏壇、仏具などは、日常礼拝の対象になっているものとして、非課税財産とされています。ですから、生前にお墓を建てたり、仏壇を買ったりしておけば、その分、現金が減って、相続税の対象となる財産も減ります」。俊樹は、驚いた。「亡くなったあとに、私たちが買うのでは駄目なのですか」。
税理士は、丁寧に答えた。「亡くなったあとに、相続人が預金から払って買う場合は、その預金は、すでに相続税の対象に含まれています。払ったからといって、相続税が減るわけではありません。非課税になるのは、亡くなった時点で、お墓や仏壇として持っている財産です」。義雄は、早く動いたほうがいいと感じた。墓じまいも、新しい墓の準備も、体力のあるうちにしておくべきだと、あらためて思った。
義雄は、霊園の永代使用料と墓石で約四百五十万円、新しい仏壇と仏具で約百五十万円、合わせて約六百万円を、墓じまいの手続きも並行して進めながら、自分の預金から、現金で一括して支払った。税理士が再度試算すると、財産が約九千四百万円に減るため、課税対象は五千二百万円。相続税の総額は約六百八十万円となり、節税の効果は約九十万円だった。
税理士は、やりすぎへの注意も、はっきりと伝えた。「日常礼拝の対象でないものは、非課税になりません。たとえば、純金の仏像や、高価な骨董品を仏具として買うのは、投資目的とみなされ、課税される恐れがあります。それから、代金をローンで払って、亡くなった時点で残っていても、その未払い分は、債務控除の対象になりません」。さらに、お墓の契約だけして代金を前払いし、建立する前に亡くなった場合の扱いは、複雑になるため、確認が必要だという。
もう一つ、俊樹と由美の間でも、話し合いが必要だった。義雄は、由美に事情を話した。「お墓と仏壇のために、六百万円を使った。節税にもなるが、相続できる預金は、その分、減る」。由美は、少し考えてから、父の気持ちを理解し、「お父さんのお墓なら、いちばん納得できるお金の使い方」と言ってくれた。領収書と契約書、霊園の使用許可証は、俊樹が一つのファイルにまとめて保管した。墓の承継者は俊樹と決め、その旨も家族で確認した。
義雄は今、友人にこう話している。お墓や仏壇は、生前に、自分のお金で、必要な範囲で買う。やりすぎず、証拠を残し、家族にも説明しておく。それが、節税と、家族の納得を両立させる、いちばんの方法だと、義雄は感じている。新しい墓の前で手を合わせる時間も、増えたという。
学びのボックス
| 墓地・仏壇は非課税財産 | 墓地、墓石、仏壇、仏具など日常礼拝の対象となるものは、相続税の非課税財産。購入代金は課税財産から外れる。 |
| 購入のタイミング | 亡くなった後に相続人が預金から買っても、預金は課税済みで節税にならない。本人が生前に、自分のお金で購入しておく。 |
| 節税効果の例 | 遺産約1億円・相続人2人の例で、約600万円分を購入すると、相続税の総額は約770万円から約680万円へ、約90万円の差。 |
| やりすぎ注意 | 純金の仏像や高価な骨董品など、投資目的とみなされるものは課税される恐れがある。ローンの未払い分は債務控除できない。 |
| 証拠と家族への説明 | 契約書・領収書・使用許可証を保管し、承継者を決めて家族に説明する。建立前に亡くなる場合の扱いは事前に税理士へ確認する。 |
