『国庫帰属制度』審査料と10年分管理費のリアル
【相続土地国庫帰属制度の運用実績と申請基準】却下・不承認事由と、審査手数料1万4千円・負担金200万円前後の現実
山口和也は、父から相続した山林と原野を、正直なところ持て余していた。実家から遠く離れた地方にあるその土地は、和也が一度も足を運んだことのない場所で、固定資産税だけが毎年律儀に請求されてくる。「誰にも使い道がなく、売ろうにも買い手がつかないこの土地を、国に引き取ってもらえないだろうか」。そう考えた和也は、令和五年から始まった相続土地国庫帰属制度の存在を知り、さっそく申請を検討し始めた。
「相続や遺贈で取得した土地であれば、要件を満たせば国に引き取ってもらえる制度がある」というニュースをどこかで見た記憶を頼りに、和也は法務局に相談に出向いた。ところが窓口の担当者から告げられたのは、想像以上に厳しい現実だった。「まず、土地の状況を確認させていただきますが、この土地には古い山小屋のような建物が残っていませんか。また、隣接地との境界は確定していますか」。
和也は言葉に詰まった。祖父の代に建てられたという小さな作業小屋が、朽ちかけたまま残っていることを思い出したのだ。「建物が残っている土地は、そのままでは対象になりません。また、境界が明確でない土地についても、却下または不承認の対象となる可能性が高いです」。担当者の説明に、和也は「引き取ってもらえるはず」という自分の見通しの甘さを痛感した。
さらに、審査には費用がかかることも告げられた。「土地一筆につき、審査手数料として一万四千円が必要です。これは審査の結果にかかわらず、返還されません」。加えて、無事に承認された場合には、十年分の土地管理相当額として負担金を納付する必要があるという。「山林の場合、面積や地目によって金額は変わりますが、今回のような広さですと、二百万円前後になることも珍しくありません」。和也は、国に引き取ってもらうことが、決して無料で済む話ではないのだと、改めて理解した。
和也は司法書士に相談し、まずは境界の確定と、放置されていた作業小屋の撤去から着手することにした。土地家屋調査士に依頼して隣接地の所有者との境界確認を進め、解体業者を手配して古い建物を取り壊した。想定していなかった出費がかさみ、費用面での負担は決して小さくなかったが、和也はこの土地を将来にわたって管理し続けることの困難さを考えれば、今ここで区切りをつける価値はあると判断した。境界確認では、隣接地の所有者の一部の所在を調べるのにも時間を要し、想定より数か月余計にかかる結果となった。
境界確定と建物撤去を終えたうえで、和也は改めて国庫帰属の申請を行った。審査手数料を納付し、数か月にわたる審査を経て、無事に承認の通知を受け取ることができた。あわせて算定された負担金を納付し、和也はようやくこの土地を手放すことができた。長年の懸案だった土地の処分がようやく完了したという安堵感は、和也にとって何よりの成果だった。
この経験を通じて和也は、相続土地国庫帰属制度が、思っていたほど気軽に利用できる制度ではないことを学んだ。建物の有無や境界の状況次第で却下される可能性があること、そして審査手数料や負担金という現実的な費用負担があることを、和也は身をもって理解した。安易に「国が引き取ってくれるはず」と考える前に、まず土地の現状を正確に把握しておくことの大切さを、和也は今回のことで痛感している。手続きを終えた後、和也は職場の同僚が同じように地方の土地を相続して困っていることを知り、自分の経験をもとに、まずは土地の状態を確認することから始めるよう助言した。
学びのボックス
| 相続土地国庫帰属制度とは | 相続や遺贈で取得した土地を、一定の要件のもとで国に引き取ってもらえる制度。令和5年から運用が始まった。 |
| 却下・不承認となる主な事由 | 建物が残っている土地、境界が明確でない土地、崖など管理に過分な費用がかかる土地などは、対象から除外される。 |
| 審査手数料 | 土地一筆につき1万4千円が必要。審査の結果が却下・不承認であっても返還されない。 |
| 承認後の負担金 | 承認された場合、10年分の土地管理費相当額として負担金を納付する必要がある。土地の面積や地目によって金額は大きく変わり、山林などでは200万円前後になることもある。 |
| 事前準備の重要性 | 境界の確定や建物の撤去など、却下・不承認事由に該当する要素を事前に解消しておくことが、円滑な申請の鍵になる。 |
