『孫への遺贈』で相続税が2割加算!養子縁組との損益分岐点[相続のお話]

『孫への遺贈』で相続税が2割加算!養子縁組との損益分岐点

村田健三は八十歳。妻に先立たれ、長男の一郎と次男の二郎の二人の息子がいる。健三が何より気にかけているのが、一郎の娘で大学生になった孫の美咲だった。「美咲の将来のために、財産を遺してやりたい」。健三は、自宅の机に向かい、時間をかけて遺言書を書いた。遺産の一部、二千万円を、孫の美咲に遺贈するという内容だった。

遺言書を作ったあと、念のため相談に訪れた税理士は、少し渋い顔をした。「お気持ちは分かりますが、孫への遺贈には注意が必要です。相続税には、二割加算というルールがあります」。健三は、思わず聞き返した。孫に財産を渡すのに、なぜ余計な税金がかかるのか、すぐには納得できなかった。「二割加算、とは」。

税理士は、順を追って説明した。「相続や遺贈で財産を取得した人のうち、被相続人の配偶者と、一親等の血族、つまり子と親以外の人が取得した場合は、その人の相続税額に、二割が加算されます。孫は、二親等ですから、この対象になります」。つまり、美咲が受け取る分の税額に、さらに二割が上乗せされるのだ。

試算では、遺産の総額が約一億円の場合、美咲の遺贈分に対する税額は約百五十万円。そこに、約三十万円が加算されることになる。「ただし、例外もあります。お孫さんの親、つまり一郎さんがすでに亡くなっていて、お孫さんが代襲相続人になる場合は、二割加算の対象になりません。今回は一郎さんがご健在なので、あてはまりません」。

「では、美咲を養子にしたらどうだろう」。健三は考えた。税理士は、首を振りながらも、丁寧に答えた。「実は、孫を養子にしても、二割加算はなくなりません。税法上、孫養子は、代襲相続人でない限り、二割加算の対象とされているのです。ただし、養子縁組には別の効果があります。法定相続人の数が増えるので、基礎控除が増え、税率が低くなる場合があるのです」。

税理士が試算すると、孫を養子にした場合、基礎控除が六百万円増え、相続税の総額が約八百万円から約六百五十万円に減る見込みだった。二割加算を考慮しても、全体としては負担が軽くなる。ただし、これは簡易な試算で、実際の財産の内容や相続人の状況によって結果は変わるという。ただし、養子縁組にはデメリットもある。美咲は、健三の子として、一郎や二郎と同じ相続分を持つことになる。遺言がなければ、一郎と二郎の取り分が減る。さらに、養子縁組は、戸籍にも残る。美咲本人が成人であれば、本人の意思で縁組に同意することが必要で、役所への届出も行う。離縁には別の手続きがいる。

健三は、一郎と二郎を自宅に呼んで、夕食を囲みながら話し合った。二郎は、「父さんの気持ちなら賛成だ」と言ってくれた。美咲にも、事情を丁寧に説明し、本人の気持ちを確かめた。美咲は驚きながらも、「おじいちゃんの気持ちはうれしい」と答えた。一郎も、娘の将来を思う父の気持ちを受け止めた。家族で話し合った結果、美咲との養子縁組を行い、遺言書の内容も、あらためて見直すことにした。公証役場での手続きは、司法書士に同行してもらい、無事に済ませた。

健三は、税金の損得だけでなく、家族の気持ちも大切にすることを学んだ。世代を飛ばした遺贈や養子縁組は、節税になる場合もあれば、二割加算で思ったほど効果が出ない場合もある。計算を専門家に依頼し、家族の納得を得てから決めることが大切だと、健三は今では考えている。

学びのボックス

相続税の2割加算被相続人の配偶者と一親等の血族(子・親)以外の人が相続・遺贈で財産を取得すると、その人の相続税額に20%が加算される。
孫への遺贈孫は二親等のため、遺贈で財産を受け取ると2割加算の対象になる。親が健在で代襲相続人にならない場合は特に注意。
代襲相続の場合親がすでに亡くなり、孫が代襲相続人として取得する場合は、2割加算の対象にならない。
孫養子の扱い孫を養子にしても、代襲相続人でない限り2割加算は残る。一方、法定相続人が増えて基礎控除などが増えるため、全体の税額が減る場合がある。
養子縁組のデメリット孫が子として相続分を持つため他の相続人の取り分が変わる。戸籍に残り、離縁は別手続き。家族の納得と専門家による試算が欠かせない。

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