『数次相続』で戸籍が100通!?放置された名義の代償[相続のお話]

『『数次相続』で戸籍が100通!?放置された名義の代償

【数次相続・数代にわたる未登記物件の整理】相続人50人超、連絡不能者多数からの相続人申告登記への長編ドラマ

中野智子は、実家の裏手にある小さな畑を相続したことをきっかけに、思いもよらない事態に直面することになった。相続登記の準備を進めるため、司法書士に依頼して戸籍を集めてもらったところ、この土地の名義が、実に明治時代の曾祖父のままになっていることが判明したのだ。曾祖父の死後、祖父、そして智子の父へと、誰も相続登記をしないまま代を重ねてきた結果だった。畑自体は小さく、固定資産税もわずかだったため、誰も名義変更の必要性を感じてこなかったのだろう。

司法書士は、智子に静かにこう告げた。「このような場合、曾祖父の相続、祖父の相続、そしてお父様の相続と、複数の相続が積み重なっている状態、いわゆる数次相続にあたります。それぞれの相続についてすべての法定相続人を確定させる必要があるため、戸籍を遡って調査すると、想像以上に多くの相続人が浮かび上がってくる可能性があります」。

戸籍調査が進むにつれ、事態は智子の想像をはるかに超えていった。曾祖父には子供が多く、その子供たちにもそれぞれ子や孫がいて、代を経るごとに相続人の数は倍々に膨れ上がっていた。最終的に判明した法定相続人の数は、実に五十人以上。しかも、その多くは全国各地に散らばっており、中には海外に移住して連絡先すら分からない人も含まれていた。取り寄せた戸籍謄本の束は、机の上に積み上げると百通近くにもなり、司法書士の事務所でもこれほどの規模の案件は珍しいと言われるほどだった。

「これほど多くの相続人がいると、遺産分割協議をまとめるだけでも大変な作業になります」。司法書士はそう説明したうえで、行政書士とも連携しながら、まず戸籍の附票などをもとに、相続人一人ひとりの現在の所在を特定する作業から始めることを提案した。手紙を送っても返事が来ない人、住所が変わっていて届かない人など、一人を特定するだけでも数週間かかることも珍しくなかった。

途方に暮れそうになる智子に、司法書士は一つの現実的な選択肢を示してくれた。「遺産分割協議が整うまでの間も、相続登記の義務は履行しておく必要があります。全員の合意を待たずに、まずは『相続人申告登記』を行っておけば、少なくとも義務違反による過料は回避できます。並行して、遺産分割協議を少しずつ進めていきましょう」。智子は、この段階的なアプローチに、わずかながら希望を見出した。

智子は行政書士と司法書士のチームとともに、一年以上かけて相続人の特定と連絡を続けた。判明した相続人の多くは、この土地に対する具体的な関心を持っておらず、智子が事情を丁寧に説明すると、自分の相続分を放棄する形での協力に応じてくれる人が大半だった。中には、遠い親戚である智子からの連絡に驚きながらも、懐かしそうに昔話を聞かせてくれる相続人もいて、智子にとっては思いがけない交流の機会にもなった。それでも数人とは連絡がつかないままとなり、最終的には家庭裁判所の不在者財産管理制度も活用しながら、手続きを前に進めていった。

長い道のりの末、智子はようやく畑の名義を自分に集約することができた。この経験を通じて智子は、相続登記を放置することが、次の世代にどれほど重い負担を残すかを痛感した。数世代にわたる相続の整理には、専門家との連携と、根気強い調査が不可欠であることを、智子は身をもって学んだ。手続きを終えた智子は、自分の子供たちがいつか同じ苦労をしなくて済むよう、今のうちに自分の財産についても整理し、遺言書の作成を検討し始めている。

学びのボックス

数次相続とは相続登記をしないまま次の相続が発生し、複数の相続が積み重なっている状態。それぞれの相続について法定相続人を確定させる必要がある。
相続人が膨れ上がる仕組み世代を経るごとに法定相続人の数は倍々に増えていく傾向があり、数代放置すると数十人規模になることも珍しくない。
相続人申告登記の活用全員の遺産分割協議が整うまでの間も、相続人申告登記を行っておけば、相続登記の義務違反による過料を回避できる。
連絡不能な相続人への対応戸籍の附票などで所在を調査し、それでも連絡がつかない場合は、家庭裁判所の不在者財産管理制度の活用も選択肢になる。
早期の相続登記の重要性相続登記を放置すればするほど、次世代が引き継ぐ調査・交渉の負担は雪だるま式に増えていく。

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