『海外在住の相続人』非居住者の日本の不動産売却と源泉徴収10.21%[相続のお話]

『海外在住の相続人』非居住者の日本の不動産売却と源泉徴収10.21%

西村剛は四十五歳。十年前に仕事でアメリカに渡り、今はロサンゼルスで家族と暮らしている。昨年、日本で一人暮らしをしていた母が亡くなった。父はすでに他界しており、兄弟もいない。剛が、東京郊外の実家を一人で相続することになった。住む予定はなく、売却すると決めたが、問題はアメリカからどう手続きを進めるかだった。時差もあり、仕事の合間に、深夜の電話で打ち合わせを重ねる日々が続いた。

不動産会社に依頼し、実家は四千万円で買い手が見つかった。買主は、地元の不動産会社、つまり法人だった。契約の日が近づくと、司法書士から連絡が入った。「売主さまは日本の居住者ではないため、売買契約書や委任状には、印鑑証明書の代わりに、サイン証明書が必要です」。

サイン証明書は、日本の印鑑証明書にあたる書類だ。海外に住む人は印鑑登録ができないため、日本の領事館で、書類に署名したことの証明を受ける。現地の公証人に署名の証明を受けて使う方法もあるが、書類の種類や登記の内容によっては、受け付けてもらえないことがある。剛は、司法書士と相談して、ロサンゼルスの日本総領事館に予約を取り、領事の面前で署名した。あわせて、現在の住所を証明する在留証明書も取得した。書類はどれも、日本の窓口なら一日で済むものだが、海外では予約と郵送で、二週間以上かかった。

決済の日、剛は、日本に残る口座で、振込額を確認して、目を疑った。四千万円のはずが、手元に入ったのは、約三千五百九十万円。差額は、約四百八万円。「どういうことですか」。不動産会社の担当者は、落ち着いて説明した。「売主さまが非居住者で、買主が法人の場合、売買代金の十・二一パーセントを、買主が源泉徴収して、国に納める決まりです」。

四千万円の十・二一パーセントは、約四百八万円。剛は、焦った。アメリカでの生活費や、子どもの学費の計画が、頭をよぎった。これは、取り戻せないお金なのか。日本の税理士にメールで相談すると、答えは違った。「源泉徴収されたのは、税金の前払いです。売却益にかかる本来の税額を計算して、確定申告をすれば、払いすぎた分は還付されます」。

税理士が、父の購入時の契約書や、建築の資料をもとに、剛の売却益を計算した。売却額が四千万円。取得費は、父が土地を買った金額と、建物の減価後の額を合わせて約千八百万円。仲介手数料などの譲渡費用が約百四十万円。譲渡所得は約二千六十万円で、長期譲渡所得として、所得税率は十五・三一五パーセント。税額は約三百十五万円になる。源泉徴収された約四百八万円との差、約九十三万円が、還付の見込みだった。

剛は、売却の年の終わりに、翌年の確定申告に備えて、日本の親戚を納税管理人に指定する届出を出した。海外にいても、書類は日本で受け取り、申告は税理士が代理で行う。申告から数か月後、書類の不備を一度だけ指摘されたものの、約九十三万円の還付が、指定した口座に振り込まれた。

剛は今、同じ立場の友人に、こう伝えている。非居住者が日本の不動産を売ると、買主が法人の場合などは、源泉徴収で手取りが大きく減る。ただし、確定申告で精算できる。サイン証明書の取得や、納税管理人の届出には時間がかかるため、売却を決めたら、早めに専門家へ相談すること。それが、遠くにいる相続人の備えだと、剛は思っている。なお、相続税は、非居住者でも、日本にある不動産には課税される。申告の要否は、売却とは別に、税理士に確認してもらうのが安心だ。

学びのボックス

非居住者の売却と源泉徴収非居住者が日本の不動産を売却し、買主が法人などの場合、買主が売買代金の10.21%を源泉徴収して納付する。個人の買主が自己居住用に1億円以下で買う場合などは不要。
源泉徴収は前払い源泉徴収された税額は、本来の税額の前払い。確定申告で売却益から税額を計算し、払いすぎた分は還付される。
還付の計算例売却益に対する税額は、取得費や譲渡費用を差し引いた譲渡所得で計算する。源泉徴収額が税額を上回れば還付、下回れば追加納付になる。
サイン証明書と在留証明海外居住者は印鑑証明書の代わりに、領事館などでサイン証明書(署名証明)を取得する。住所証明の在留証明書も必要になることが多い。
納税管理人の届出確定申告や書類の受取のため、日本国内の納税管理人を届け出る。海外からの手続きは時間がかかるため、売却を決めたら早めに専門家へ相談する。

この記事を書いた人

souzoku-ad


家族信託・よくあるご質問
家族信託・用語集
このサイトについて
よくあるご質問
用語集
お問い合わせ