相続した家、売るか貸すか住むか
岡田雄一(55歳)が実家を相続したのは、父が他界した翌年の春のことだった。母はすでに他界しており、兄弟もいない。一人息子の雄一が、父が三十年以上暮らした一軒家を丸ごと引き継ぐことになった。
雄一はすでに持ち家があり、実家に住む予定はない。さて、この家をどうするか。売るか、貸すか、それとも維持し続けるか。判断を先送りにしているうちに半年が過ぎていた。
専門家に相談すると、まず三つの選択肢を整理してもらった。
一つ目は売却だ。まとまった現金が手に入り、管理の手間もなくなる。ただし、売却益が出た場合は譲渡所得税がかかる。譲渡所得税は、売却価格から取得費と譲渡費用を引いた利益に対して課税される。所有期間が五年以下の短期譲渡なら約三十九パーセント、五年超の長期譲渡なら約二十パーセントの税率だ。相続した不動産の取得費は、被相続人が購入した際の価格を引き継ぐため、古い物件ほど取得費が低く、利益が大きく算出されやすい点に注意が必要だ。
ただし、相続した空き家を売却する場合は「空き家に係る譲渡所得の特別控除」という制度がある。一定の要件を満たす場合、譲渡益から三千万円を控除できる特例で、税負担を大幅に減らせる可能性がある。この特例は令和九年末まで適用期限が延長されており、要件の確認と期限内の売却を検討する価値がある。
二つ目は賃貸だ。毎月の家賃収入が得られ、固定資産税などのコストを賄いながら資産を保有し続けられる。ただし、入居者の管理、建物のメンテナンス、修繕費の負担といったコストとリスクが伴う。築年数が古い建物の場合、リフォーム費用が高額になることもある。また、賃貸収入は不動産所得として確定申告が必要になる。
三つ目は維持(空き家のまま保有)だ。固定資産税・都市計画税を払い続けながら、何もしない状態を続けることになる。近年、空き家対策として「特定空き家」に指定されると固定資産税の優遇措置が外れ、税負担が最大六倍になる制度も導入されている。また、管理が行き届かない空き家は近隣への迷惑や資産価値の低下につながるため、長期の放置はリスクが高い。
「雄一さんの状況であれば、空き家特例を活用した売却が最も現実的ではないでしょうか」と専門家は言った。「ただし、特例の要件として、昭和五十六年以前に建築された建物であること、相続後に居住・賃貸・事業に使用していないことなどの条件があります。まずは要件を確認しましょう」
雄一は調べてみると、実家は昭和四十八年築で、条件を満たしていた。相続後に誰も住んでおらず、賃貸にも出していなかった。
半年悩んでいた答えが、ようやく見えてきた。空き家特例を活用して、今年中に売却に動こう。雄一はそう決めた。
相続した不動産は、放置するほど選択肢が狭まり、コストだけが積み上がる。早めに専門家に相談し、自分の状況に合った選択肢を検討することが、賢明な相続後の対応だ。
この記事で学べること
相続した不動産は①売却②賃貸③維持の3択です。空き家を売る場合は「空き家特例(3,000万円控除)」が使えることがあります。放置するほど選択肢が狭まるため、早めに専門家へ相談することが大切です。
