相続税の申告、自分でできる?
西村京子(57歳)は、母の死から三ヶ月が経った頃、税務署から一通のハガキを受け取った。「相続税についてのお知らせ」と書かれていた。見慣れない言葉に不安を感じながら、京子はハガキをじっと見つめた。
母の財産は、自宅の土地と建物、それから預貯金が約一千五百万円。「うちは普通の家庭だから相続税は関係ない」とずっと思っていた。しかし試しに路線価をもとに土地の評価額を調べてみると、思いのほか高い数字が出た。財産の合計が基礎控除額を超える可能性が浮かび上がってきた。
相続税の基礎控除は「三千万円+六百万円×法定相続人の数」で計算される。相続人は京子と弟の二人なので、控除額は四千二百万円だ。土地と建物と預貯金を合わせると、この金額をわずかに上回る可能性があった。
「相続税の申告は自分でできますか」と税理士に相談すると、正直な答えが返ってきた。「できないことはありませんが、難易度は財産の内容によって大きく異なります。預貯金だけなら比較的シンプルです。しかし不動産が含まれる場合、土地の評価額の計算が複雑になります。形状や接道状況、利用状況によって補正がかかり、専門的な知識が必要です。評価を誤ると、過大申告で税金を払いすぎるか、過少申告で税務調査の対象になるリスクがあります」
申告に必要な書類も多岐にわたる。被相続人と相続人全員の戸籍謄本、遺産分割協議書、不動産の登記事項証明書、固定資産税評価証明書、金融機関の残高証明書、生命保険の支払証明書——これらをすべて収集するだけで相当な時間と手間がかかる。申告期限は相続開始を知った日から十ヶ月だが、書類収集に追われて準備が遅れるケースは多い。
「どういう場合に税理士に頼むべきですか」という問いに、税理士はこう答えた。「不動産がある場合、相続人が複数いる場合、小規模宅地等の特例や配偶者控除などを適用する場合は、専門家への依頼を強くお勧めします。特例の適用を誤ると、本来払わなくていい税金を払うことになります。税理士報酬は財産総額の約○・五から一パーセント程度が目安ですが、それ以上の節税効果が得られるケースも多いです」
税理士に依頼した京子は、土地の評価額を正確に算出してもらい、小規模宅地等の特例も適用できることがわかった。母と同居していた弟が土地を相続することで、評価額が最大八十パーセント減額される。最終的な相続税額は、自分で試算していた金額よりも大幅に少なくなった。
「相談してよかった」と京子は弟に言った。「申告できるかどうか」より「正しく申告できるかどうか」が重要だと、今回改めて実感した。自分でやろうとして評価を誤るより、専門家に依頼した方がトータルでは得になることが多い。相続税申告は、早めに動き出すことが、余裕ある対応への第一歩だ。
この記事で学べること
不動産が含まれる相続税申告は土地評価の計算が複雑で、評価誤りのリスクがあります。小規模宅地等の特例など節税制度の適用判断も含め、早めに税理士に相談することが正確な申告への近道です。
