相続税の計算、いくらかかる?
坂本雅彦(54歳)が相続税のことを初めて真剣に考えたのは、父の四十九日が終わった翌週のことだった。葬儀の慌ただしさが落ち着き、いよいよ現実と向き合わなければならないと感じたときだ。
父・義夫(享年81歳)は都内の一戸建てに住んでいた。母はすでに亡く、相続人は雅彦と妹の幸子(50歳)の二人だ。父の財産は自宅の土地と建物、それから預貯金が約二千万円。「うちには相続税は関係ない」と長年思っていたが、土地の評価額を調べて驚いた。路線価をもとに計算すると、土地だけで六千万円を超える可能性があった。都内の住宅地は、本人が意識しないまま高い評価額になっていることが多い。
税理士に相談すると、まず相続税の基礎的な仕組みを教えてもらった。相続税には基礎控除があり、「三千万円+(六百万円×法定相続人の数)」という計算式で求められる。今回は相続人が二人なので、三千万円+一千二百万円=四千二百万円が基礎控除額になる。相続財産の総額がこれを超えた場合に、初めて相続税が発生する仕組みだ。逆に言えば、基礎控除の範囲内に収まれば、申告すら不要になる。
雅彦が特に驚いたのは、税率の構造だった。相続税は累進課税で、課税対象額が多いほど高い税率が適用される。一億円以下なら三十パーセント、三億円以下なら四十パーセントといった具合に、段階的に上がっていく。預貯金だけでなく、土地や株式なども財産として評価されるため、「現金はそんなにない」と思っていた人が想定以上の相続税に直面するケースは少なくない。
「土地と預貯金を合わせると相当な金額になりそうですが、節税できる方法はありますか」と雅彦は聞いた。税理士が教えてくれたのが「小規模宅地等の特例」だった。被相続人が住んでいた自宅の土地を、一定の要件を満たす相続人が引き継ぐ場合、その土地の評価額を最大八十パーセント減額できる制度だ。たとえば評価額が六千万円の土地なら、特例を使うことで一千二百万円として計算できる。これにより、相続税の負担が大幅に減る、あるいはゼロになるケースも多い。
特例の主な要件は、同居していた親族が相続すること、または被相続人と別居していても自身が持ち家を持っていない相続人が相続することだ。いずれも、相続税の申告期限まで売却しないことが条件になる。要件を満たすかどうかは個別の状況によるため、専門家への確認が欠かせない。
雅彦は父と同居していなかったが、妹の幸子は数年前から父と同居して介護を手伝っていた。つまり、幸子が自宅を相続すれば、小規模宅地等の特例が使えることになる。兄妹で話し合い、自宅は幸子が相続し、預貯金は雅彦が多めに受け取るという代償分割の形で合意した。特例を活用した結果、相続税の総額は当初の試算から大幅に圧縮された。
「もっと早く相談しておけばよかった」と雅彦は言った。相続税の申告期限は相続開始を知った日から十ヶ月だが、財産評価や特例の検討には時間がかかる。亡くなってすぐに動き始めることが、余裕ある対応につながる。
相続税は「お金持ちだけの話」ではない。都市部の不動産を持つ家庭では、思わぬ金額になることがある。基礎控除の仕組みと小規模宅地等の特例を知っておくだけで、いざというときの備えが大きく変わる。専門家への早めの相談が、賢い相続への第一歩だ。
この記事で学べること
相続税の基礎控除は「3,000万円+600万円×法定相続人数」です。都市部の不動産は評価額が高くなりがちですが、「小規模宅地等の特例」を使うと最大80%減額できます。同居親族が相続する場合に適用できる重要な制度です。
