[相続のお話]遺産に借金があった、どうする?

遺産に借金があった、どうする?

長谷川康子(55歳)が母の相続手続きを始めると、思わぬものが出てきた。母が生前に借りていた消費者金融の借入残高だ。プラスの財産は自宅の土地と建物、預貯金が約八百万円。しかしマイナスの財産として、消費者金融への借入が約三百万円あることが通帳の記録からわかった。葬儀の慌ただしさが落ち着いてから、康子はようやく現実に向き合わなければならないと感じた。

    弟の雅人(51歳)と話し合ったが、結論が出なかった。プラスとマイナスを差し引きするとプラスになる計算だ。しかし、他にも隠れた借金があるかもしれないという不安が拭えなかった。母はおっとりした人で、細かいお金の管理はあまり得意ではなかった。二人は弁護士に相談することにした。

    弁護士から、相続の方法には三つの選択肢があると教えてもらった。

    一つ目は「単純承認」だ。プラスの財産もマイナスの財産もすべて引き継ぐ通常の相続方法だ。何もしなければ熟慮期間(三ヶ月)の経過後に自動的に単純承認となる。プラスが明らかに上回っている場合はこれが一般的な選択だ。ただし、後から想定外の借金が発覚しても取り消せないリスクがある点に注意が必要だ。

    二つ目は「相続放棄」だ。すべての相続権を手放す方法で、家庭裁判所への申し立てが必要だ。プラスの財産も受け取れなくなるが、借金も一切引き継がない。熟慮期間の三ヶ月以内に手続きをしなければならず、一度放棄すると撤回できないため、慎重な判断が求められる。放棄した場合、次の相続順位の人(兄弟姉妹など)に相続権が移ることも覚えておきたい。

    三つ目は「限定承認」だ。プラスの財産の範囲内でのみ借金を返済し、残りを相続する方法だ。財産がプラスかマイナスかはっきりしない場合に有効な制度だが、相続人全員が共同で申し立てる必要があり、手続きが複雑で時間もかかる。実際に利用される件数は少ないが、財産の全容が掴めない段階では検討に値する選択肢だ。

    「隠れた借金があるかもしれないと心配な場合はどうすればいいですか」と康子は聞いた。弁護士はこう答えた。「信用情報機関(CIC・JICC・全国銀行個人信用情報センター)に照会をかけると、金融機関からの借入状況を確認できます。ただし、友人間の個人的な借金は信用情報には載りません。母上の手帳やメモ、通帳の振込・引き落とし記録なども丁寧に確認することをお勧めします」

    康子と雅人は信用情報機関に照会をかけた。消費者金融の三百万円以外に、別の借入は見当たらなかった。個人的な貸し借りも、母のメモを確認したところすでに返済済みと記録されていた。全体像が把握できたことで、二人の気持ちは少し落ち着いた。

    最終的に二人は単純承認を選んだ。プラスの財産から借入を返済しても、約五百万円が手元に残る計算だ。弁護士に借入先との交渉を依頼し、スムーズに解決することができた。「最初は途方に暮れていたけど、専門家に相談してよかった」と康子は弟に言った。

    相続にはプラスとマイナスの両面がある。マイナスの財産が心配な場合は、まず信用情報の照会と書類の確認で全体像を把握することが大切だ。三ヶ月という熟慮期間を有効に使い、焦らず専門家と一緒に判断することが、後悔のない相続につながる。単純承認・相続放棄・限定承認の違いを知っておくことが、いざというときの備えになる。

この記事で学べること





相続にはプラスとマイナスの両面がある。マイナスの財産が心配な場合は、まず信用情報の照会と書類の確認で全体像を把握することが大切だ。三ヶ月という熟慮期間を有効に使い、焦らず専門家と一緒に判断することが、後悔のない相続につながる。単純承認・相続放棄・限定承認の違いを知っておくことが、いざというときの備えになる。「知っているかどうか」が、家族を守ることに直結する。

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