[相続のお話] 相続税を払うお金がない

相続税を払うお金がない

福田浩之(52歳)は、母の相続手続きを進める中で、頭を抱える問題に直面した。相続税の試算をしてもらうと、約四百万円の納税が必要だとわかった。しかし浩之の手元にある現金は、葬儀費用を差し引くと百五十万円ほどしかない。母の財産の大半は、都内の自宅の土地と建物だ。不動産はあるが、現金が足りない——よく聞く話だとは思っていたが、まさか自分がその状況になるとは思っていなかった。

    税理士に相談すると、現金が足りない場合の納税方法として、いくつかの選択肢があることを教えてもらった。知らないまま申告期限を過ぎてしまうと、延滞税や加算税が発生する。まず選択肢を理解することが急務だった。

    一つ目は「延納」だ。相続税を分割して納める方法で、最長二十年にわたって分割払いができる。ただし、利子税(年率おおむね1パーセント台から2パーセント程度)がかかること、担保が必要なこと、相続財産に占める不動産の割合が一定以上あることなどの要件がある。延納を希望する場合は、相続税の申告期限(相続開始を知った日から十ヶ月)までに申請書を提出しなければならない。延納の途中で資金が用意できれば、残額を一括返済することも可能だ。

    二つ目は「物納」だ。現金の代わりに、相続した財産そのものを国に納める方法だ。不動産、株式、国債などが対象になる。延納によっても金銭での納付が難しい場合に認められる制度で、延納の後に申請するのが原則だ。ただし、抵当権が設定されている不動産など、物納に適さない財産もある。物納の評価額は相続税評価額で計算されるため、市場価格より低くなることが多い点に注意が必要だ。

    三つ目は、相続した不動産を売却して納税資金を確保する方法だ。市場価格で売却できれば物納よりも多くの資金が得られるため、まず売却を検討することをお勧めするケースが多い。ただし、売却には時間がかかるため、申告期限までに完了しない可能性もある。その場合は延納を申請しながら、並行して売却を進めるという方法が現実的だ。

    「申告期限に間に合わない場合はどうなりますか」と浩之は聞いた。

「期限内に申告・納付しないと、延滞税や加算税が発生します。延納の申請が通れば分割払いが認められますが、申告そのものを遅らせることはリスクが高いです。資金の手当てが間に合わなくても、申告だけは期限内に必ず済ませてください」と税理士は言った。

    「相続税の申告後に、追加で借金が見つかった場合は更正できますか」と浩之はさらに確認した。

「申告後に新たな事実が判明した場合は、更正の請求という手続きで申告内容を訂正できます。申告期限から五年以内が対象です。過大に申告していた場合は、税金が戻ってくることもあります」

    浩之は税理士と相談し、申告期限内に延納を申請しつつ、並行して実家の売却活動を始める方針を決めた。幸い実家の立地が良く、売却先はすぐに見つかった。延納の途中で売却代金が入ったため、残りの相続税を一括で完済することができた。

    「現金がないから相続税が払えない」という事態は、不動産を多く持つ家庭では珍しくない。
延納・物納・不動産売却という選択肢を知っておくだけで、いざというときに冷静に対処できる。申告期限内に申告することを最優先に、早めに税理士に相談して複数の選択肢を比較することが、焦りのない納税への第一歩だ。

この記事で学べること


相続税の納税資金が不足する場合、①延納(最長20年の分割払い) ②物納 ③不動産売却の3つの方法があります。まず申告期限内に申告することが最優先で、資金の手当てはその後に進めることができます。

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