[相続のお話] 遺言書の書き方、間違えると無効になる

遺言書の書き方、間違えると無効になる

遠藤みゆき(62歳)は、夫を亡くして二年が経った頃から、自分のエンディングノートを作り始めた。財産の一覧や葬儀の希望を書き留めるうちに、「遺言書も書いておこう」という気持ちが固まった。

娘が二人いる。長女の彩(38歳)は同居しており、次女の恵(35歳)は遠方に住んでいる。自宅の土地と建物は彩に残したい。同居して家のことを支えてくれた彩への感謝の気持ちがある。預貯金は二人で半分ずつにしてほしい。みゆきの気持ちはシンプルだった。

インターネットで調べながら、みゆきは自分で遺言書を書いた。書き終えた後、念のため司法書士に確認してもらうと、いくつかの問題点を指摘された。

「まず、財産の目録部分にパソコンで作成したリストを添付されていますね。自筆証書遺言の本文はすべて自筆で書く必要がありますが、財産目録については平成三十一年の法改正でパソコン作成が認められるようになりました。ただし、目録のすべてのページに署名と押印が必要です。今回は押印が一枚しかありませんので、不備があります」

「次に、日付が『令和六年吉日』となっていますね。吉日という記載は具体的な日付がわからないため、無効と判断されます。必ず年月日を正確に記載してください」

「また、押印は認印でも法的には有効ですが、本人が作成したことの証明力を高めるため、実印の使用をお勧めします」

みゆきは三点の不備を知り、書き直すことにした。本文はすべて手書きで、財産目録の各ページに署名・押印、日付は年月日を正確に記入した。

司法書士からは、公正証書遺言という選択肢も提案された。「公正証書遺言は公証人が作成に立ち会い、内容を公証役場に保管します。紛失や改ざんのリスクがなく、家庭裁判所の検認も不要です。作成費用は財産の額によりますが、数万円程度です。自筆証書遺言と比べると手間とコストがかかりますが、確実性が高いです」

「どちらを選べばいいですか」とみゆきは聞いた。「財産が複雑でない場合や、内容をあまり知られたくない場合は自筆証書遺言でも十分です。ただし、法務局の保管制度を使えば検認が不要になり、紛失リスクも減らせます。一方、不動産が含まれ相続人間でのトラブルを防ぎたい場合は、公正証書遺言の方が安心です」

みゆきは書き直した自筆証書遺言を法務局に預けることにした。費用は一件三千九百円。手軽に使える制度が整っていることを知り、安心した。

書き直した遺言書を封筒に入れながら、みゆきは娘たちのことを思った。自分がいなくなった後、二人が揉めることなく前を向いてほしい。そのための遺言書だ。

自筆証書遺言は手軽に作れるが、要件の不備で無効になるリスクがある。全文自筆・日付・氏名・押印という基本要件を守り、法務局の保管制度を活用することで、確実に意思を残すことができる。

この記事で学べること


自筆証書遺言は「全文自筆・正確な年月日・氏名・押印」が必須要件です。『吉日』の記載や財産目録の押印漏れで無効になるケースがあります。法務局の保管制度(3,900円)を使えば検認不要で安全に保管できます。

この記事を書いた人

souzoku-ad


家族信託・よくあるご質問
家族信託・用語集
このサイトについて
よくあるご質問
用語集
お問い合わせ