『内縁の妻』に相続権はある?特別縁故者制度の真実[相続のお話]

『内縁の妻』に相続権はある?特別縁故者制度の真実


婚姻届のない内縁関係でも、特別縁故者として財産分与を受けられる仕組み

藤田久美子は、内縁の夫である正夫と、籍を入れないまま二十年以上連れ添ってきた。互いに再婚同士で、子供たちへの配慮もあり、あえて法律上の婚姻届は出さずに、事実上の夫婦として暮らしてきたのだった。正夫が病気で亡くなったとき、久美子は深い悲しみとともに、これから先の生活への不安にも直面することになった。最期の入院生活も、久美子がつきっきりで支え続けてきた日々だった。

正夫には離婚した前妻との間に子供はおらず、両親もすでに他界していた。兄弟姉妹もいない天涯孤独の身の上だったため、正夫の法定相続人は誰もいない状態だった。久美子は長年連れ添った内縁の妻ではあったが、婚姻届を出していない以上、法律上の相続人には該当しない。二人で築いてきた自宅も預貯金も、このままでは誰にも引き継がれず、最終的には国庫に帰属してしまうのではないかと、久美子は不安に駆られた。

途方に暮れた久美子は、司法書士に相談することにした。「正夫さんに法定相続人がいらっしゃらない場合、まず家庭裁判所によって相続財産清算人が選任され、相続人を捜索する公告が行われます。一定期間内に相続人が現れなければ、相続人が不存在であることが確定します」。司法書士はそう説明してくれた。

「その後、家庭裁判所に対して、被相続人と生計を同じくしていた者や、療養看護に努めた者など、特別の縁故があった方からの財産分与の申立てが認められる制度があります。これを『特別縁故者に対する相続財産の分与』といいます。久美子さんのように、長年連れ添った内縁の配偶者は、この特別縁故者に該当する典型的なケースです」。久美子は初めて聞く制度に、わずかながら希望を見出した。

司法書士はさらに、「この申立てには期限があります。相続人不存在が確定してから三か月以内に、家庭裁判所へ申立てをしなければなりません。期限を過ぎてしまうと、この制度を利用する機会を失ってしまいますので、注意が必要です」と付け加えた。久美子は、正夫との生活を証明する資料を、早いうちから集めておく必要があることを理解した。悲しみに暮れる間もなく動き出さなければならない現実に、久美子は複雑な思いを抱えながらも、気持ちを奮い立たせた。

久美子は、正夫と同居してきた住民票の履歴、生活費を共同で負担してきた通帳の記録、正夫の入院中に付き添った際の病院の記録などを、司法書士とともに一つずつ整理していった。二十年以上にわたる二人の暮らしの積み重ねが、そのまま特別縁故者であることを裏づける証拠になった。近所の人たちに夫婦として認識されていたことを示す年賀状や、旅行の写真なども、あわせて整理しておくよう勧められた。

相続財産清算人による公告期間が終わり、相続人不存在が正式に確定すると、久美子は速やかに家庭裁判所へ財産分与の申立てを行った。数か月にわたる審理を経て、家庭裁判所は久美子を特別縁故者と認め、正夫の遺した自宅と預貯金の大部分について、久美子への分与を認める審判を下した。

この経験を通じて久美子は、婚姻届を出していないという理由だけで、長年の絆が法律上まったく評価されないわけではないことを知った。特別縁故者という制度があることを知らなければ、二人で築いてきたものすべてを手放さざるを得なかったかもしれないと、久美子は今でも胸をなで下ろしている。審判が確定した後、久美子は自宅の名義変更の手続きを終え、正夫との思い出が詰まったその家で、これからも暮らし続けていくことを決めた。

学びのボックス

内縁の配偶者に相続権はない婚姻届を出していない内縁関係の配偶者は、法律上の相続人には該当せず、通常は遺産を相続できない。
相続人不存在の確定手続き法定相続人がいない場合、家庭裁判所が相続財産清算人を選任し、相続人を捜索する公告を経て相続人不存在が確定する。
特別縁故者に対する財産分与とは被相続人と生計を同じくしていた者や療養看護に努めた者など、特別の縁故があった者が、家庭裁判所に財産分与を申し立てられる制度。
申立ての期限相続人不存在が確定してから3か月以内に、家庭裁判所へ申立てをする必要がある。期限を過ぎると制度を利用できなくなる。
縁故を裏づける資料の重要性同居の住民票履歴、生活費の共同負担を示す通帳記録、療養看護の記録などを整理しておくことが、特別縁故者と認められるための鍵になる。

この記事を書いた人

souzoku-ad


家族信託・よくあるご質問
家族信託・用語集
このサイトについて
よくあるご質問
用語集
お問い合わせ