[学ぶ・知る] 相続人でなくても、もらえる権利があった[相続のお話]

相続人でなくても、もらえる権利があった

坂口律子(58歳)が夫を亡くしたのは、五十五歳のときだった。子どもはいない。夫の財産は自宅と少しの預貯金で、相続人は律子一人だったため、手続き自体はスムーズに終わった。

問題が起きたのは、それから三年後だった。義母の千代(84歳)が他界したのだ。

律子は夫の両親とは良好な関係を築いてきた。義父はすでに他界しており、義母の法定相続人は夫の兄・健二(63歳)と、先に亡くなった夫の二人のはずだった。しかし夫はすでに他界している。このとき、律子はどういう立場になるのか。

律子は専門家に相談した。担当者の説明を聞いて、律子は「代襲相続」という仕組みを初めて理解した。

「本来の相続人が被相続人より先に亡くなっている場合、その子どもが代わりに相続する権利を引き継ぎます。これを代襲相続といいます。ただし、今回のケースではお子さんがいらっしゃいませんので、夫の相続分は誰にも代襲されません」

「では、私には義母の遺産を相続する権利はないということですか」

「そうです。配偶者は相手の親の相続人にはなりません。律子さんは義母様の相続人ではなく、相続権を持つのは健二さんのみということになります」

律子は複雑な気持ちだった。長年、義母の介護を手伝ってきた。施設への送り迎え、通院の付き添い、週に何度かの面会——夫亡き後も、律子は義母との関係を大切にしてきた。それでも、法律上は相続人ではない。自分の貢献はどこにも反映されないのかと、胸の中でため息をついた。

「ただ、一つ方法があります」と担当者は続けた。「民法には『特別寄与料』という制度があります。相続人でない親族が、被相続人の療養看護などに特別な貢献をした場合、相続人に対して金銭の請求ができる制度です。平成三十年の民法改正で新設されました」

「私も請求できますか」

「律子さんは相続人の配偶者、つまり三親等内の姻族にあたりますので、対象になります。介護の内容と期間をもとに、特別寄与料を健二さんに請求することが可能です。ただし、健二さんとの合意が必要です。合意できない場合は、家庭裁判所への申し立てが必要になります。また、請求できる期間は相続の開始を知った日から六ヶ月以内、相続開始から一年以内という期限がありますので、早めに動くことが大切です」

律子は健二さんに率直に話した。健二さんは「律子さんが母の面倒を見てくれていたことは、俺もよく知っている。正当な話だと思う」と言い、話し合いは穏やかに進んだ。

義母が遺した財産の一部を、律子は特別寄与料として受け取ることができた。金額よりも、自分の関わりが正当に認められたことが、律子にはありがたかった。

相続の法律は、家族の形に合わせて少しずつ変わってきている。知っているかどうかで、大きな差が生まれることもある。律子はそのことを、今回身をもって学んだ。

この記事で学べること


相続人でない親族が介護などで貢献した場合、「特別寄与料」を相続人に請求できる制度があります(平成30年民法改正)。配偶者の親を介護していた方も対象になる場合があります。請求期限は相続開始から1年以内です。

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