[相続のお話]生命保険の落とし穴、受取人が先に亡くなっていたら

生命保険の落とし穴、受取人が先に亡くなっていたら

「保険証券が出てきましたが、受取人が亡くなった母になっています」

父・岡本達夫が急逝し、遺品整理を進めていた長女の岡本さやか(四十六歳)が保険証券を手に取ったのは、葬儀から一週間後のことだった。

達夫は三十年前、中堅の生命保険に加入していた。死亡保険金は二千万円。受取人欄には妻の春子の名前が書かれていた。しかし春子は三年前、がんで先に逝っていた。

「お父さん、手続きを変えないままだったんだ……」とさやかは呟いた。

弟の拓也(四十二歳)も駆けつけた。「それで保険金はどうなるの?お父さんの遺産として分けるの?」

保険会社からの「意外な回答」

翌日、さやかが保険会社に電話をかけると、担当者は丁寧に説明してくれた。

「受取人が指定されていますが、その方がお亡くなりになっている場合、当社の約款に基づき、受取人の法定相続人の方々が保険金を受け取られます」

「母の相続人ということですか?」とさやかは聞き返した。

「そうです。お母様の法定相続人の方々に、法定相続分の割合に応じて保険金をお支払いする形になります」

さやかは受話器を持ちながら頭の中を整理した。母・春子の相続人は誰か。春子が亡くなったとき、その相続人は夫の達夫と、子供のさやか・拓也の三人だった。しかし今や達夫も他界している。達夫の相続分は今度は達夫の相続人——さやかと拓也——が引き継ぐ。

「受取人の相続人全員」という仕組み

税理士の大野先生に相談すると、法律の構造を丁寧に解説してくれた。

「最高裁の判例でも確認されていますが、受取人が先に死亡していた場合、保険金の受取権は受取人の相続人全員に移ります。今回の場合、春子さんの相続人であるさやかさんと拓也さんが受取人になります——達夫さんの相続財産を通じてではなく、直接です」

「つまり、この保険金はお父さんの遺産ではないんですか」

「そうです。生命保険金は受取人の固有財産であり、被保険者(達夫さん)の相続財産にはなりません。遺産分割協議の対象外になります」

さやかは少し安堵した。「では、遺産を巡る話し合いとは別に、保険金は私と弟で受け取れるということですね」

「その通りです。ただし相続税の計算上は『みなし相続財産』として課税対象になります。非課税枠(法定相続人の数×五百万円)が使えますので、今回は一千万円まで非課税です」

受取人変更「忘れ」の教訓

手続きを経て、保険金はさやかと拓也の二人に振り込まれた。各自一千万円ずつ、想定外の形で。

「結果的には私たちに届いたけど、もし春子さんの両親がまだご存命だったら、そちらにも相続権が生じていた可能性がありますよ」と大野先生は言った。「受取人の相続人というのは、ケースによっては思わぬ人々が含まれます」

さやかは父の保険証券をあらためてファイルに入れながら思った。「お父さんも手続きを面倒に感じていたのかな。でも、一枚の書類を変えるだけで、こんなに複雑なことにならずに済んだのに」

生命保険の受取人は、家族の変化に合わせて必ず見直す——それが、大切な人への最後の気遣いになる。

学びのボックス]生命保険受取人と相続のポイント


受取人が先死亡した場合の原則生命保険の受取人が被保険者より先に死亡し、受取人変更がされていなかった場合、保険金の受取人は「指定受取人の相続人全員」となるのが約款上の原則(最高裁判例でも確認)。
「受取人の相続人」全員が受取人になる受取人(妻)の相続人(子・親など)が、各自の法定相続分に応じて保険金を受け取る権利を持つ。保険金は被保険者(夫)の相続財産にはならない。
受取人変更の手続き受取人の変更は保険会社への書面申請で行う。被保険者が生存中はいつでも変更可能。配偶者を受取人にしている場合、配偶者が先に亡くなったら速やかに変更することが重要。
保険金と相続税の関係生命保険金は原則として相続財産ではなく受取人固有の財産。ただし相続税法上は「みなし相続財産」として課税対象になる。非課税枠(500万円×法定相続人数)も適用される。
受取人の見直しを定期的に結婚・離婚・子供の誕生・家族の死亡など、家族構成の変化があるたびに保険の受取人を見直す習慣が重要。年に一度、保険証券を確認することをお勧めする。

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