[相続のお話]独身の叔母の遺産、兄弟姉妹には遺留分がない?

独身の叔母の遺産、兄弟姉妹には遺留分がない?


埼玉県に住む会社員・鈴木和也(50)は、独身のまま亡くなった叔母・恵子さんの遺言書を前に困惑していた。恵子さんには子どもがおらず、両親もすでに他界。相続人になり得るのは兄である和也の父・正一と、もう一人の弟だけだった。ところが公正証書遺言には「すべての財産を、長年介護をしてくれた姪の由美に譲る」と明記されていた。葬儀の後、遺言の内容を知った親族の間には、静かな動揺が広がっていった。恵子さんの財産には自宅マンションのほか、まとまった額の預貯金も含まれていた。

晩年の恵子さんは足腰が弱り、一人暮らしを続けることが難しくなっていた。近くに住んでいた由美は仕事の合間を縫って毎日のように恵子さんのもとへ通い、通院の付き添いや食事の世話、時には夜間の急な体調不良への対応まで、献身的に世話を続けていた。恵子さんはその感謝の気持ちを込めて、生前に公正証書遺言を作成し、預貯金と自宅不動産のすべてを由美に相続させると決めていたのだった。公証人役場でのやり取りには、恵子さんの明確な意思が記録として残されていた。

遺言の内容を知った正一は激怒した。「妹の面倒を見ていたのは自分たちきょうだいも同じだ。長年会いにも行っていたのに、由美だけが全財産を受け取るのはおかしい。遺留分を請求してやる」と息巻き、和也にも相談を持ちかけてきた。しかし念のため相続に詳しい弁護士に相談したところ、正一が想像もしていなかった回答が返ってきた。

「兄弟姉妹には、法律上そもそも遺留分が認められていません」。弁護士の説明によれば、遺留分が保障されるのは配偶者、子(またはその代襲相続人)、直系尊属に限られ、兄弟姉妹はこの対象から除外されているという。恵子さんに子がおらず両親も他界している以上、法定相続人は兄弟姉妹である正一たちのみだが、その立場では遺言の内容にどれほど不満があっても、法律上遺産の取り分を取り戻す権利はないというのだ。正一はしばらく言葉を失い、それでも納得しきれない様子だった。「では自分たちには何の権利もないのか」と食い下がる正一に、弁護士は法律の趣旨を丁寧に説明した。

正一は「きょうだいなのに何も請求できないのか」と肩を落としたが、弁護士からは、恵子さんが公正証書という有効な形式で明確に意思を残していたこと自体が、由美の献身的な介護に報いたいという強い意思の表れだったのだろうと諭された。結局、正一たちは遺言の内容をそのまま受け入れることとなった。和也は「もし恵子さんが遺言を残していなければ、法定相続分をめぐって話し合いが必要だったはずだ。遺言の力とその及ぶ範囲を正しく理解しておくことの大切さを実感した」と話している。

学びのボックス


遺留分相続人に最低限保障される遺産の取り分。配偶者・子(代襲相続人含む)・直系尊属にのみ認められる
兄弟姉妹の遺留分兄弟姉妹には遺留分が認められていない。遺言があれば内容通りの相続となる
兄弟姉妹が相続人になる場合被相続人に子も直系尊属もいない場合、兄弟姉妹が法定相続人となる
公正証書遺言公証人が関与し証拠力・執行力が高い遺言形式。意思表示が明確で紛争予防に有効

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