[相続のお話]財産目録にない『ゴルフ会員権』の怪

財産目録にない『ゴルフ会員権』の怪

「これ、何ですかね……」

父の書斎の金庫を整理していた長女の大石麻里(四十九歳)は、埃をかぶった茶封筒の中から一枚の証書を取り出した。「○○カントリークラブ 正会員証書」と書かれている。

父・大石隆三は生前、ゴルフが趣味だった。しかし麻里にはゴルフとは縁がなく、その証書が何を意味するのかピンとこなかった。「まあ、もう使わないから関係ないか」——そう思って証書を箱にしまい込んだのが、後に響くことになる。

相続税申告の落とし穴

相続税の申告は、顧問税理士の福島先生が担当してくれた。不動産・預金・有価証券をひとつひとつ確認し、申告書が完成したのは相続開始から九ヶ月後のことだった。

麻里はゴルフ会員権の証書のことを、失念していた。あるいは「古い趣味の道具」程度にしか考えていなかった。

申告から一年半後、税務署から「お尋ね」の文書が届いた。「申告に際し、ゴルフ会員権についての記載が見当たりません。ご確認をお願いします」

麻里は青ざめた。あの証書のことだ——。

「預託金返還請求権」という財産

慌てて福島先生に連絡すると、先生は静かに説明した。

「ゴルフ会員権は立派な相続財産です。多くのゴルフ場は会員から入会時に『預託金』を預かっており、会員権には『将来、そのお金を返してもらう権利(預託金返還請求権)』が含まれています。これは金銭的な価値を持つ権利として、相続税の課税対象になります」

「評価はどうやって決まるんですか」

「取引相場のある会員権であれば、相続発生日時点の取引価格の七十%相当額が相続税評価額になります。このゴルフ場の会員権は市場で取引されており、当時の相場は約二百万円でした。評価額は百四十万円となります」

申告漏れとなった百四十万円に対して、延滞税と過少申告加算税が加算されることになった。金額は大きくないが、麻里には「なぜ気づかなかったのか」という後悔が残った。

見落としやすい会員権の存在

「なぜゴルフ会員権は見落とされやすいんですか」と麻里は福島先生に尋ねた。

「銀行口座や不動産は登記や通帳で確認しやすいですが、会員権の証書は金庫や引き出しに眠っていることが多い。遺族がその存在すら知らないケースも珍しくありません。税務署はゴルフ場への会員名義照会や金融機関への調査から申告漏れを把握しますので、必ずバレます」

「相続発生後はまず故人の書類を全部確認することが大切です。ゴルフ会員権だけでなく、リゾートクラブの会員権、テニスクラブ会員権なども同様に課税対象です」

「資産」として受け継ぐために

麻里は修正申告を終えたあと、ゴルフ場に連絡した。会員権を相続するには名義書換の手続きが必要で、書換料も発生することを初めて知った。

「ゴルフをやらないなら、会員権を売却する方法もあります」と福島先生は教えてくれた。二次市場で売却すれば数十万円の手元資金になる。

遺産の中には、目に見えにくい権利や証書が眠っていることがある。相続手続きの第一歩は、故人の書類をくまなく確認すること。その一手間が、申告漏れという思わぬ失点を防いでくれる。

学びのボックス:ゴルフ会員権と相続税のポイント


ゴルフ会員権の法的性質ゴルフ会員権は「預託金返還請求権」と「施設優先利用権」の複合した権利。預託金部分は債権として、株式型は株式として相続財産に含まれる。
相続税の評価方法取引相場のある会員権は、課税時期の取引価格の70%相当額が相続税評価額となる(財産評価基本通達)。取引相場のないものは解約返戻金相当額等で評価。
申告漏れになりやすい理由会員権証書が金庫に眠っていることが多く、銀行口座や不動産のように一覧化されていない。遺族が存在自体を知らないケースも珍しくない。
税務調査で指摘されやすい税務署はゴルフ場への会員名義照会・金融機関への調査から申告漏れを把握する。申告漏れには延滞税・過少申告加算税が課される。
名義変更の手続きゴルフ会員権の相続には、ゴルフ場への名義書換申請が必要。書換料が数十万円かかるケースも多い。相続人が会員資格を引き継げるか、事前にゴルフ場へ確認を。

この記事を書いた人

souzoku-ad


家族信託・よくあるご質問
家族信託・用語集
このサイトについて
よくあるご質問
用語集
お問い合わせ