[学ぶ・知る]家族信託が失敗・後悔する12のケース

家族信託が失敗・後悔する12のケース

「家族信託で円満に進むと思った相続が思わぬ展開になってしまった。」
「家族信託を使ってみたら後で大変なことになった。」
「よいとおもって結んだ家族信託、こんなことならやめておくべきだった。」

家族信託は親の認知症対策や財産の相続としても有効な手法であるという認識で広まりつつある一方で、家族信託を十分理解せず、使い方を間違えると、思わぬトラブルや家族関係が悪くなってしまうなど、家族信託をしたことを後悔したりするなどの事態がおこる可能性があります。ここでは「家族信託で失敗・後悔した12のケース」についてと「トラブルを防ぐための4つの方法について説明していきます。

 1認知症が進んでしまい信託契約ができなくなる。


家族信託は認知症対策の1つですが、親に契約する能力がある間しか契約できません。そのため認知症を発症し意思能力を完全に失った後には利用することができません 。
家族信託を検討している段階や、契約締結に向けて進めている間に認知症が発症または進行してしまい、契約ができなくなってしまうのです。
家族信託は大きな決断になるので、「今後じっくり時間をかけて検討しよう」と思っている間に、元気であった両親が認知症を発症したり、急に認知症が進んでしまうなどのケースがあります。
決断を早めにして準備をすすめていたけれども、信託の内容が複雑であったり、金融機関を通じての融資を絡めたケースなどでは半年や一年かかるなど想定以上に時間を要してしまい、その間に親の認知症が進んでしまったこともあります。
認知症になってしまった後では、方法として成年後見制度(法定後見)を使うほかありません。その場合は家族信託より内容や条件に制約があるため本来望んでいたようなことができるのかも問題となります。

 2信託できない財産を信託財産としてしまう。


家族信託しようとしても信託できない財産があります。代表的なものとして「農地」「預貯金口座」「年金」です。
これらを信託契約書に記載したとしても信託の対象となりません。
「農地」については農地法という法律にのっとった手続きが必要となります。事実上信託財産とすることは認められないのです。信託財産には土地や建物がありますが、土地の地目が「農地」になっている場合、信託の対象となるのか注意が必要です。
次に「預貯金口座」についてですがこちらは金融機関との間で「譲渡禁止特約」が結ばれているため自由に名義変更等や譲渡を行うこはできません。
すこしややこしいのですが、親と家族信託契約を結んだ子がその契約書を銀行に持参して「家族信託契約をしたから親の口座の預金を下ろしたい」と言っても銀行側は対応してくれません。ただし、「預貯金口座」の中にある「金銭」はもちろん信託が可能です。信託契約を結んだ後に、親自身が預貯金口座内の金銭を、受託者である子名義の信託口口座(家族信託用の口座)に送金手続きをすることで、子は信託の対象として金銭を扱えるようになります。
ほかにも年金いわゆる「年金受給権」も信託ができません。「年金受給権」は年金を受け取る本人にしか与えられていません。 法律で譲渡が禁止されているため、家族信託でも年金受給権を譲渡できないのです。 信託財産の対象外とされています。

 3家族信託で不動産を信託して高額な税金が発生

家族信託における税金について注意が必要です。そもそも家族信託は高齢者の財産を管理・守っていくことを主眼としており、税金対策としての制度ではありません。
ケースとして、親が所有している不動産を家族信託として、その受益権を孫に移動する契約を結んだとします。委託者本人ではなく第三者(孫)が受益者となるため、この場合他益信託にあたります。信託財産から生じた利益を受ける権利がある人が孫になり、税法上、孫に贈与があったものと見なされ贈与税が課されます。
他にも、信託財産が不動産の場合、将来、親の亡くなったのち信託契約を終了させたときに信託契約終了登記の際に登録免許税が課税されます。登録免許税は課税される税率が2種類あり(固定資産評価額の2%と0.4%)、契約書の内容によっては高い税率が課されてしまう可能性があり注意が必要です。
制度の内容やしくみなどを熟知せずに利用をすると思わぬ税金等が課せられる可能性があります。想定外の税金が発生して後悔しないように事前に専門家と対策を行いましょう。

 4「1年ルール」受託者=受益者が一年継続で強制終了


受託者と受益者が同一になり、その状態が一年間継続すると家族信託が強制的に終了するということです。例えば、こんな事例が考えられます。
財産権を親から子、子から孫に順番に承継することは遺言ではできませんが家族信託においては可能です。しかし契約の内容を注意しておかないと予定にはなく家族信託が終了してしまうことがあります。
委託者:親 受託者:子 受益者:親→子→孫
財産権を親から子、子から孫に順番に承継させる家族信託を契約します。その後親が死亡し、子が受託者と受益者とを兼ねた場合、この状態が1年続くと家族信託は終了となります。「受託者=受益者」の場合は、信託ではなく所有権を持っている状態と変わらず、また受託者と受益者が同じ人物という家族信託においては特殊な状態です。これが1年間継続した場合、信託契約は終了となり、孫に受益権を承継できなくなります。
このような事態を回避する手段として、あらかじめ子の次の受託者(第二受託者といいます)を定めておいたり、信託開始時に第二受託者を決められない場合は受益者に受託者を指定できる権限を与えておいたりするとよいでしょう。また、受託者を法人とすることも一つの手段として考えられます。

 5「30年ルール」により信託契約が終了


家族信託では当初の受益者が亡くなった後も、受益者を子や孫へと順番に財産を承継し続けることが可能です。これは「受益者連続型信託」とよばれておりいます。
ただし、信託期間が30年以上など長期にわたる家族信託には注意が必要です。30年を経過したのち、前の受益者が亡くなったことで新たに受益権を取得した方は、その方が亡くなるまでしか効力を有しないと規定されています(信託法第91条)。つまり、信託契約から30年経つと、財産の承継は1度しか行われません。これが30年ルールと呼ばれるものです。
もし委託者の孫やひ孫へと財産を承継したいとしても、30年ルールの縛りがあるため注意してください。

 6 遺留分トラブルが起きる


遺留分とは 相続の際に特定の相続人が遺産を相続できる最低限の取り分のことを指します。遺留分は、遺言があったとしても奪うことのできない、法定相続人に与えられている権利であり、家族信託も、この遺留分を侵害する契約内容にはできません。
家族信託は相続時の財産承継についても定めることができるため相続対策としても有効です。しかし、相続人の間で偏った割合で財産を承継させる場合には注意が必要です。遺産をもらえなかった相続人から遺留分を請求される可能性があるためです。、請求された場合は金銭で支払う必要があります。

信託契約書を作成する際には遺留分にも配慮して作成し、将来的なトラブル防ぐ必要があります。もし遺留分が請求される可能性が高い契約を行う場合には併せて遺留分相当額を金銭で支払える準備等をする必要があります。
後々になって遺留分侵害額請求などのトラブルの火種がうまれないよう、対応を進めておくなどの注意が必要です。

 7自分たちで契約書を作成してトラブルになる


以前はあまりないケースですが、近年はインターネットの普及により、家族信託をふくめ色々な情報が取得できる上に、契約の手続きや契約書のテンプレートまで入手できるようになりました。そのため自分自身で手続きを進める方も増えており、家族信託についても例に漏れず自身で行う方も増えてまいりました。しかしながら家族信託についてご自身で契約手続きを進めることをおすすめいたしません。

家族信託は2006年の信託法改正をうけて施行され、まだ十数年しか経っておらず、将来のリスクもまだ未知数な部分もあります。家族信託の契約を作るにあたっては、信託法など家族信託の基となっている法律知識や、税務知識などの専門的な知識も必要です。
それに加え家族信託は対象となる家族の状況「信託財産の状況」「相続人の数」「家族間の関係性」「委託者の相続の意思など」等に応じて、慎重かつ柔軟に設計する必要があります。

家族を交えて行うもので、何十年と効果を発生させるもので、その範囲は非常に広いものと考えます。将来のトラブルやリスクを考え、司法書士や弁護士など専門家の力を借りて契約書作成を依頼することをおすすめします。

 8家族信託終了時に相続空き家特例が使えない

2022年12月20日に信託税務に関する重要な東京国税局の文書回答事例が公表されました。
信託終了後に帰属される信託不動産については、相続後の居住用財産(空き家)に係る譲渡所得の特別控除の特例の適用を受けられないという内容です。

「相続空き家特例」とは、空き家となった被相続人(亡くなった人)の住まい(被相続人居住用家屋及び被相続人居住用家屋の敷地等)を相続又は遺贈にて取得した人が、空き家を耐震リフォームまたは取壊しをした後に売却した場合には、その譲渡にかかる譲渡所得の金額から3,000万円を特別控除するというものです。

今回の回答では、受益者死亡によって信託終了した後に帰属される信託不動産については、適用要件の1つとなる”相続又は遺贈による取得”に該当しないため、この特例が適用ができないとしています。

相続空き家の特例については、家族信託では適用できない以前に、物件自体がこの特例の条件に該当するものなのかを確認する必要があります。加えて、控除される特例については「相続空き家の特例」以外にも他の特例がありますので、専門家に相談することをすすめます。

 9家族・親族の仲が悪くなる

家族信託は、委託者(親)の財産の管理人を指定したり、将来の相続について指定したりと、多くの重要な決定を行います。また、親の認知症対策としても有効で、親の認知症が悪化したとしても子が親の財産を管理しながら介護費用や生活費を使うことが可能です。

一方で、家族信託は相続と違い、相続人全員で手続きする必要がなく、当人同士が合意の上で契約書を作成すれば締結でき、契約が成立します。
つまり、子どもの1人が親自身と契約を進め、他の兄弟に情報共有をせずに勝手に進めていくと、契約上は締結できますが、家族の中で誤解を受けやすいのも事実です。
家族信託を締結した後になって「こういうルールは知らなかった」「私には説明がなかった」など、他の家族・親族からのクレームにより、家族信託がストップしてしまうこともあります。
家族信託を検討している方は、当人たち以外の家族・親族との問題やトラブルを防ぐために、関係者全員に説明を行いましょう。

 10損益通算ができなくなる

損益通算とは所得などで利益と損失が出た場合に相殺することできるものです。
例として、赤字のアパートを所有している場合に、所得税の計算時にその損失部分を損益通算して所得税の金額を抑えることができるのです。
また、同じ人が所有する赤字経営のアポートと黒字経営のアパートがあった場合に、利益と損失を相殺して利益を圧縮することが可能です。
しかし、この赤字経営の不動産を家族信託の信託財産とした場合には、損失が発生していないものとされて、「信託していない黒字経営の不動産」の利益と損益通算をすることができません。損益通算できないとなると、信託していない黒字の不動産の利益を圧縮できないため、相対的に所得税が多くなってしまいます。
他に黒字の不動産を所有している方や、大規模修繕を予定している方などは損益通算について注意しておかないと、思わぬところで税金が発生する可能性があります。

 11 経験のない専門家に依頼して

家族信託は契約を締結して終わりではなく、そこからがスタートであり長期間にわたり継続していく契約です。
契約内容は必要に応じて後から多少の変更が可能ですが、信託契約は強い契約のため慎重に進めていく必要があります。

まだ施行されてから判例もそれほど多くなく、弁護士や司法書士といった法律の専門家でも取り扱いの経験が少なく、家族信託を専門にしている方もまだまだ少ない現状です。経験の少ない専門家に依頼した場合は締結してから後々にトラブルが生じる可能性があります。

また、家族信託を締結した後に当初の予定通りに進まないこともあります。経験豊富な専門家は、予定外の事態が生じることをも想定して対応できるよう契約書に工夫をします。例えば「受益者代理人」の設置、受益者代理人は、判断能力の低下した受益者や、幼い子を受益者としたような場合に、当該受益者の代理人として動くことで、受益者の保護と信託事務の円滑化などを図ります。
経験の少ない専門家の場合は、予定外の事態が生じたとしても対応できない可能性があり契約の内容が円滑に進まない可能性があります。

 12 公正証書を作成しなかった

家族信託の契約書は、私文書による契約も有効ではあるため必ずしも公正証書にせずとも良いとされています。
ただし、家族信託が扱う財産や、管理者および利益の帰属先などを決定する重要な文章であり、法的な有効性が担保されるように公正証書での作成を強くすすめます。
、委託者が認知症になった後に思わぬトラブルになるリスクがあります。

また、受託者は自身の財産と信託財産を分けて管理する必要があり、金融機関に信託口口座を新たに開設しなければなりません。
金融機関によりますが、信託口口座開設には公正証書で作成された信託契約書が必要としています。
公正証書を作成していなかったために、信託口口座を開設できないなどとあとでならないよう、必要な準備として公正証書にて作成を行いましょう。

いかがでしょうか、ここまで家族信託での失敗のケースを挙げてきましたが、この失敗や後悔を避けるための方法について次から解説していきます。

【家族信託の失敗・後悔を避ける方法】

失敗例を紹介してきましたが、適切に運用すれば家族信託は認知症対策に有効です。リスクを回避するための方法についてここから紹介します。

  • 1親が認知症になる前に契約する
  • 2専門家に相談する
  • 3家族全員と家族会議をおこなう
  • 4家族信託以外の選択肢も検討する

 1親が元気なうちに契約を結ぶ


親に契約する意思能力がある間しか家族信託は契約できません。認知症が進んでしまうと信託の契約自体ができなくなってしまいます。したがって、親が元気なうちに、なるべく早めに行動する必要があります。
なお、認知症と診断されていてもその程度が軽度であり、判断能力が十分にあると認定されれば、家族信託を締結できる可能性はあります。
しかしながらこのケースの場合、後なって親族などから締結した家族信託の有効性を巡ってトラブルになる恐れがあるため、ケースによっては家族信託ではなく成年後見制度等の他の制度を利用した方がいい場合もあります。これについては専門家と相談して下さい。

 2専門家に相談する


家族信託に精通した専門家に依頼することで、トラブルを回避できるだけでなく、より適切な方法の選択が得られるかもしれません。
家族信託契約書は法的な有効性や妥当性等とあわせて複雑で高度な設計を求められます。
契約書不備からの失敗、家族との情報共有の不備からの失敗や税務面での失敗など後々トラブルに発展するしないように、専門家へ相談してこれを回避していきましょう。

 3家族会議を開いて家族全員で理解・共有する


家族信託の契約については当事者のみでの契約は成立しますが、家族信託を進める際にはやはり家族全員の理解が必ず必要です。
親の財産が絡むことなので、家族に知らされていない状態で勝手に話が進んでいると「相談されなかった」「知らなかった」ということから、感情的に不満・不安が生まれ、トラブルにつながります。
そのため、家族会議をひらいて、親本人の言葉で「相続についての考え」を説明して家族親族の理解につなげることが良いでしょう。併せて「家族信託の目的や仕組み」についても説明し理解を深めてもらいます。必要があれば専門家も家族会議に参加してもらい説明をしてもらうのも手です。
重要なことは、「親の言葉」で話してもらうことです。子供の1人から、家族親族に伝えるよりも親本人の言葉で伝えた方がスムーズで同意が得られやすいです。
全員の合意を得て、納得の上で家族信託を進めていくことが理想です。

 4家族信託以外の相続対策も検討する


親の認知症対策として有効と考えられている家族信託ですが、ご家族の状況により家族信託では対応できないケースもありすし、他の制度や手段もあるためベストな選択肢を広い視野をもって選ばれることをすすめます。
他の制度として、「成年後見制度(法定後見・任意後見)」「遺言」「生命保険」およびこれらと家族信託との併用という方法もあります。
特に、高齢者の財産を本人以外が管理するには、家族信託以外に「成年後見制度」があります。成年後見制度について制度として家族信託と大きく異なるため違いについては理解した上で進めることが重要です。
家族信託は親の老後から相続や次の世代まで財産を引き継がせることが可能で幅広い分野をカバーできるものですが、ご家族の状況や希望によりより良い選択肢は他にあるかもしれません。
どの方法がより良い選択肢なのかを判断することは難しいので、専門家にアドバイスを受けることをおすすめ致します。

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