[学ぶ・知る]家族信託のメリット・デメリット【デメリット編】

家族信託のメリット部分に対して、家族信託のデメリット部分もやはり存在します。

家族信託の良い面だけを見てきて、契約をすすめてみたものの、契約後に実情を知り、やらなければ良かったと後で後悔はしてほしくありません。それでは家族信託のデメリット部分について見ていきたいと思います。

家族信託のデメリット一覧

家族信託は万能ではない

家族信託は万能ではありません。家族信託には身上監護権はありません。これは、認知症になった親が施設に入居する場合、受託者である子どもが親の代理人として入居契約をすることができないということです。

「身上監護(しんじょうかんご)」とは、成年後見人が、成年被後見人の心身の状態や生活の状況に配慮して、被後見人の生活や健康、療養等に関する法律行為を行うことや、未成年者の法定代理人(親権者又は未成年後見人)が、未成年者の身体的及び精神的な成長を図るために監護・教育を行うことをいいます。
成年被後見人の身上監護には、例えば、成年被後見人の住居の確保及び生活環境の整備、施設等の入退所の契約、治療や入院等の手続などがあります。

家族信託はあくまでも、財産管理のための制度です。入居した施設のお金を信託された財産の中から支払うことはできますが、親の代理人として入居契約をする権限はありません。

そのため、私どもに相談に来られた同様な方については、お話を聞いて家族信託契約と任意後見契約をセットでお勧めしています。
任意後見契約とは、子どもや頼れる人をあらかじめ後見人に指定をしておく契約になります。

1財産の管理を誰もやりたがらない(受託者がいない)

家族信託の受託者を誰もやりたがらない場合があります。そうすると家族信託自体ができません。

建物を目的とした家族信託の場合には、受託者には建物について管理する義務があります。もしも老朽化して壊れて通行人などに怪我をさせてしまった場合には、その損害を賠償する責任が生じます。信託をされた財産以上の損害だった場合には、自身の財産からも賠償しなければなりません。

また、毎年かかる固定資産税の納税通知書も受託者にきます。

そういう意味で受託者の責任は重いものになるため、受託者が見つからないということもおこります。

2親族間の不公平感を生む可能性

2人子どもがいて、そのうちの1人を受託者とした場合に、もう一方の子どもに何も知らせず勝手に進めてしまうと、知らされなかった子どもから文句が出てくることもあります。

受託者である子どもは信託された財産に対してとても大きな権限を持つため、財産の収支等がブラックボックス化してしまっている場合に、お金を使い込んでいるのでないかという疑いが生まれ、家族間の争いに発展することがあります。

それを防ぐためには、あらかじめ家族信託を進める前に家族会議をしておくことが重要です。

3長期間にわたり受託者が契約内容に拘束される

家族信託契約は契約して終わりというものではありません。むしろ契約をした時からスタートして長期間にわたって続くものになります。

その間、受託者(多くは子ども)は家族信託契約の内容に拘束されます。毎年、受益者である親に向けて信託された財産の収支を作成報告し、報告書類を保管をする手間も発生します。

4祖父母や両親に家族信託の同意をとりずらい

家族信託のメインとなるのは委託者となる祖父母または両親です。そのため受託者の候補となる子ども達の意向だけで話を進めることはできません。

祖父母または両親が理解し、進めることについて承諾しない限りは進められません。

これは障害となる点が2つあるからだと考えられております。

  • 1点目は、わかりづらく馴染みがない制度であること。「家族信託」は、「売買」や「贈与」と比べると、日頃頻繁に聞き慣れているとはいえないものです。そのため、専門家であっても慣れない方が説明をした際、「よくわからないし、面倒くさそうだからやりません。」と言われてしまい、同意が取れない可能性があります。
  • 2点目は、財産の名義が受託者の名義に変わることです。特に不動産の場合、不動産登記の名義が受託者である子どもに変わるため、生きてる間に不動産をとられてしまうのではないかという不安が生まれ、同意してもらえない可能性があります。

5信託している不動産の損失を別の信託財産で相殺できない(損益通算不可)

複数の事業などを手掛けている場合に、損益通算や損失の繰越を経営に生かしている方もいます。

しかしながら、家族信託をした不動産については信託していない事業との損益通算ができません。また信託した不動産事業で赤字が出た場合にこれを繰り越しすることができません。

そのため、複数の事業を持っている人が家族信託を活用する場合にはそのあたりのデメリットも含めて検討することをお勧めしています。

6取扱できない不動産がある

畑、田んぼについては、家族信託をすることができません。これらの不動産は、農作物を育てるために重要な土地として国として特別なルールを作っています。そのため、農地は農業協同組合または農地保有合理化法人による信託の引受け以外、原則として信託できません。

7税務申告の手間がかかる

家族信託をした場合に、受託者である子どもの手間としてもう一つ発生することとして、税務署へ書類の提出を求められることがあります。

例えば信託財産から発生する収益の額が3万円を超える場合には毎年、信託の計算書を作成し提出する必要があります。

他にも提出書類を求められることがありますので、相談をした専門家に確認をすることをお勧めします。

8(直接的な)節税対策にはならない

家族信託それ自体には、相続税を節税する効果はありません。不動産等の名義は子どもに変わりますが、財産権(受益権)は親の元にそのまま残るためです。信託したからといって財産の評価を下げることもできません。

親に相続が発生したときには、財産権(受益権)は信託契約で決めた人に承継され、その時に相続税と同様の税額を納付する必要があります。

9遺留分侵害額請求をされる場合がある

家族信託契約によって決めた後継者に財産権(受益権)を承継する際に、遺留分を持つ別の相続人がいる場合、遺留分相当額のお金を請求してくる可能性があります。

まだ、家族信託契約による承継に対して遺留分の対象になるかどうかの答えは明確にはなっていません。

遺留分侵害額請求は家族仲を壊してしまうことにもつながる強い権利のため、遺留分が発生しないように設計することや、あらかじめ家族会議をしておくなど、未然に防止できる工夫をとっておくことも重要です。

10信託した財産にはいずれ相続税がかかる

既述の通り、家族信託をした場合でも、財産権(受益権)を持つ親が亡くなった場合には、相続税と同様の金額を納税する必要があります。

その時に慌てないために、子どもが相続税を納税できるのかは事前にシミュレーションをしておくと安心できます。

11費用の相場はケースバイケース

専門家にかかる報酬について、統一の報酬基準はありません。目的と財産の内容については、100万円を超えてくることもあります。ただ、この金額は個人的に決して高いとは思いません。

家族信託契約は終わりではなく、スタートになります。関わった専門家としては、自分が設計した家族信託の利用者と関係を維持できるよう連絡を取り合い、予想外の事態が生じた時にも連絡をもらい対応していくことが求められます。しかも何年も続く可能性があります。

その手続き後のサポートも元の報酬に含んでいると考えているからです。目の前の専門家が契約後もサポートをしてくれるのかを確認して選んでいく必要があります。

12相談できる専門家が少ない

家族信託に精通している専門家はあまり多くありません。先述の通り、家族信託は契約をしてからスタートです。しかし、入り口の契約のサポートを経験した専門家は増えてきていますが、契約後の想定外の事態への対応や信託の終了までを一貫して経験している専門家はまだまだ少ないです。

契約書作成のサポートをした専門家がその後についてはフォローを対応してくれず、別のところへ相談にいかれる利用者もいらっしゃいます。

いかがでしたでしょうか?家族信託を活用することで円満な承継ができる一方、不具合も何箇所かは存在します。デメリット部分も知った上で、ご自身の行いたい目的が家族信託を通じて可能なのか、それともデメリット部分のほうが大きいのかそれぞれの立場でじっくり考えてみてください。

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