『国庫帰属制度』申請却下の現実!境界未確定と土壌汚染の壁[相続のお話]

『国庫帰属制度』申請却下の現実!境界未確定と土壌汚染の壁

吉岡真司は五十六歳。東京で会社員をしている。三年前に亡くなった父から、長野県の山林を相続した。面積は約三千平方メートル。父が若いころに買った土地で、真司は一度も行ったことがない。固定資産税は年に数千円だが、草刈りや、境界の管理は、誰がするのか。遠方で、売れる見込みもなく、持ち続けるのが、重荷になっていた。

そんなとき、真司は、相続した土地を国に引き取ってもらえる、相続土地国庫帰属制度の存在を知った。ネットで調べると、申請書を法務局に提出し、審査に通れば、負担金を納めて、国に土地を引き渡せるという。審査手数料は、土地一筆あたり一万四千円。申請できるのは、相続や遺贈で土地を取得した人に限られ、売買で買った土地は、対象にならない。真司は、「これで肩の荷が下りる」と喜び、書類をそろえて申請した。

二か月後、法務局の職員が現地を調査し、結果の通知が届いた。そこには、却下や不承認とする、いくつかの理由が書かれていた。第一に、隣地との境界が、はっきりしないこと。隣の山林の所有者が、真司の土地の一部を自分の土地だと主張しており、争いがあった。第二に、山の一角に、不法投棄されたとみられる廃家電やタイヤ、さび付いた缶が、積み上がっていたこと。

真司は、頭を抱えた。山の管理から解放されるはずが、かえって手間が増えてしまった。納めた一万四千円は、返ってこない。法務局の担当者は、親切に教えてくれた。「国庫帰属の審査では、土地の境界が明らかで、所有権について争いがないことが前提になります。また、土地の上に、通常の管理や処分を妨げる物があると、承認されません。土壌が特定の有害物質で汚染されている土地も、対象外です」。

担当者の説明では、他にも、いくつか条件があった。土地の上に建物があると、申請できない。崖で、管理に過大な費用がかかる土地は、承認されない。担保権などが付いている土地や、他人が使う予定のある土地も、対象外だ。真司の土地は、境界とごみの二点が、ネックだった。

真司は、土地家屋調査士に相談し、境界を確定する作業を依頼した。隣地の所有者との立会いは、何度も調整が必要だった。最初は、主張が食い違い、話し合いは難航した。調査士が、古い測量図や公図、航空写真を示しながら、少しずつ話を詰め、半年後、境界確認書に、双方が署名した。費用は約八十万円。ここで初めて、境界杭が打たれた。

次に、不法投棄された物の撤去だ。産業廃棄物の処理業者に頼み、廃家電やタイヤを、運び出してもらった。費用は約五十万円。廃油らしい缶の周りは、念のため、土壌の簡易な調査も行った。結果は、汚染の心配はないというものだった。調査費用は約二十万円。

事前の準備を整えてから、真司は、法務局の事前相談を受けた。担当者から、問題がないことを確認したうえで、あらためて申請した。数か月後、承認の通知が届いた。真司は、十年分の管理費に相当する負担金を納付し、土地は国のものとなった。準備の費用は、総額で約百五十万円かかったが、真司は、肩の荷が下りたと感じている。

真司は、同じ立場の人に、こう伝えている。申請が通ると、国に管理を任せられるが、そのための準備は、申請者の責任だ。国庫帰属制度は、何でも引き取ってくれる制度ではない。申請の前に、境界、ごみ、建物、担保の有無を確認し、法務局の事前相談を受けること。それが、遠回りに見えて、いちばんの近道だと。

学びのボックス

国庫帰属制度の対象相続・遺贈で取得した土地が対象。売買で取得した土地は申請できない。審査手数料は1筆1.4万円で、却下・不承認でも返金されない。
却下・不承認になる主な例建物がある、担保権が付いている、境界が不明確で争いがある、土壌汚染がある、崖で管理費用が過大、除去すべき物がある、など。
境界の確定隣地所有者との争いは却下の理由になる。土地家屋調査士に依頼し、立会いと境界確認書、境界杭の設置で明確にしておく。
ごみ・汚染への対処不法投棄された物は撤去し、土壌汚染の疑いがあれば調査で確認する。申請前の準備費用は申請者の負担になる。
事前相談と負担金申請前に法務局の事前相談を受ける。承認後は、10年分の管理費相当の負担金を納付して、国へ引き渡す。

この記事を書いた人

souzoku-ad


家族信託・よくあるご質問
家族信託・用語集
このサイトについて
よくあるご質問
用語集
お問い合わせ