実家を売ったお金を分ける『換価分割』[相続のお話]

実家を売ったお金を分ける『換価分割』


代表者名義だけに課税されるリスクと、協議書に明記すべき一文

石田直樹は、母が亡くなった後、誰も住まなくなった実家をどうするかで、妹の由紀と話し合いを重ねていた。実家は古い一戸建てで、直樹も由紀もすでにそれぞれ別の場所にマイホームを構えており、住む予定はない。二人が出した結論は、「売却して現金化し、その代金を半分ずつ分ける」というものだった。相続人二人で均等に分けるこの方法は、いわゆる「換価分割」と呼ばれる遺産分割の一種だと、遺産分割協議書を作成してくれた司法書士から説明を受けていた。実家に残された母の思い出の品を整理しながら、直樹と由紀は何度も電話でやり取りを重ね、ようやくこの結論にたどり着いていた。

不動産の売却手続きを進めるにあたり、直樹と由紀は、便宜上、いったん直樹の単独名義に相続登記をしてから売却する方法を選んだ。二人同時に名義を入れるより手続きが簡単だという理由からだった。売却は順調に進み、買主も無事に見つかり、直樹の口座に売却代金が振り込まれた。直樹はその中から半分の金額を由紀の口座に振り込み、二人の間では特に問題なく取り決めどおりに現金が分配された。

ところが、確定申告の時期が近づいたころ、直樹は税理士から思いがけない指摘を受けた。「不動産の名義が直樹さん単独になっている以上、税務署から見れば、売却によって生じた譲渡所得はすべて直樹さん個人のものとして扱われる可能性があります。つまり、由紀さんに渡した半分の代金についても、直樹さんが全額分の譲渡所得税を負担しなければならなくなるかもしれません」。直樹は青ざめた。実家の売却益にはそれなりの譲渡所得が発生しており、もし全額に対して直樹一人が課税されるとなれば、由紀に渡した分まで自分の税金でカバーすることになってしまう。それだけでなく、由紀への振込が「贈与」とみなされ、別途贈与税がかかる可能性まであると聞き、直樹は事態の深刻さを実感した。

税理士は続けて、換価分割特有の落とし穴について説明してくれた。「換価分割は、便宜上一人の名義にして売却するケースが多いのですが、遺産分割協議書に『これは換価分割のための売却であり、売却代金は相続人間で分配する』という趣旨が明記されていないと、税務署に単独の資産売却だと誤解されるリスクがあります。この一文があるかないかで、課税関係がまったく変わってくるのです」。幸い、直樹と由紀が作成していた遺産分割協議書には、司法書士の助言もあって「本不動産は換価分割のために被相続人石田花子の相続人である石田直樹の名義とし、売却代金は相続人間で法定相続分に応じて分配する」という一文が明記されていた。

税理士はその協議書の文言を確認し、「これがあれば、譲渡所得は各相続人がそれぞれの取得割合に応じて申告することができます。直樹さんと由紀さんが、それぞれ二分の一ずつの譲渡所得として申告書を提出すれば問題ありません」と太鼓判を押してくれた。直樹は胸をなで下ろし、由紀にもすぐにこの経緯を伝えた。

二人はそれぞれ税理士のサポートを受けながら確定申告を済ませ、余計な税負担を避けることができた。申告書には協議書の写しを添付し、換価分割による売却であることを税務署に明確に説明できるようにしておいた。直樹はこの一件をきっかけに、遺産分割協議書は署名捺印して終わりではなく、税務上どう扱われるかまで見据えて文言を確認することの大切さを実感した。翌年、二人は久しぶりに実家があった場所を一緒に訪れ、更地になった土地を見ながら、母との思い出話に花を咲かせたという。

学びのボックス


換価分割とは相続財産を売却して現金化し、その代金を相続人間で分配する遺産分割の方法。不動産のように分けにくい財産でよく使われる。
代表者名義のリスク便宜上、相続人の一人の名義にして売却すると、税務上その一人だけに譲渡所得が生じたとみなされるおそれがある。
協議書に明記すべき文言「換価分割のための売却であり、代金は相続人間で分配する」旨を遺産分割協議書に明記しておくことで、各相続人がそれぞれの取得割合に応じて申告できる。
代金分配と贈与税のリスク換価分割の趣旨が協議書に明記されていないと、代表者から他の相続人への送金が贈与とみなされ、贈与税が課税される可能性もある。
確定申告時の対応譲渡所得の申告の際は、遺産分割協議書の写しを添付するなどして、換価分割による売却であることを税務署に明確に示すことが望ましい。

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