[相続のお話] 孫の未来に贈る1500万円――教育資金一括贈与、祖父母の決断と手続きの記録

孫の未来に贈る1500万円――教育資金一括贈与、祖父母の決断と手続きの記録

渡辺勝久(わたなべかつひさ)は、七十四歳の元銀行員だ。定年後は妻の幸江と二人で、郊外の一軒家でのんびり暮らしてきた。

長男夫婦の家には、小学三年生の孫・航太(こうた)がいる。勉強が好きで、算数の問題を解くのが楽しいらしい。先日の参観日では、クラスで発表する姿がまぶしかった。

ある夜、長男の誠が電話してきた。「父さん、航太を中学受験させようと思ってる。でも塾の費用がかなりかかって……」。言いかけて、誠は口をつぐんだ。お金の話を頼みにくいのだろう。

勝久は翌朝、幸江に話した。「俺たちが援助できるうちに、航太の教育資金をまとめて渡してやろう。贈与税がかからない方法があるはずだ」

元銀行員の勝久はすぐに調べた。「教育資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置」――祖父母や父母が、三十歳未満の子や孫の教育資金として信託銀行等に一括して贈与する場合、受贈者一人あたり一千五百万円まで贈与税が非課税になる特例だ。

勝久は取引のある信託銀行に電話し、窓口で詳しく説明を受けた。手続きの流れはこうだ。まず勝久が「贈与者」、航太が「受贈者」として契約を結ぶ。信託銀行に専用口座を開設し、勝久が資金を一括で入金する。航太が学校や塾の費用を払ったとき、その領収書を信託銀行に提出すれば、口座から払い出しが受けられる。

「領収書の提出は、原則として支払いから一年以内です」と担当者が説明した。「塾代・学校の授業料・修学旅行の積立・学用品費なども対象になりますが、習い事は学校以外の場合、一部制限があります」

使い道の制限も確認した。学習塾や家庭教師の費用は対象になる。スポーツ教室や文化教室は、学校の課外活動として認められる場合とそうでない場合がある。領収書の内容次第で払い出しが認められないこともあると聞き、勝久は「きちんと記録を残すよう、誠に伝えておかなくては」と思った。

特例の期限についても確認した。この制度は何度か延長を繰り返してきたが、現時点では令和八年(二〇二六年)三月三十一日まで適用される予定だ。ただし、制度内容や期限は税制改正によって変わる可能性があるため、担当者は「最新の情報は国税庁のウェブサイトか、税務署にご確認ください」と念を押した。

気になったのは「使い残し」の問題だ。航太が三十歳になったとき、または死亡したとき、口座に残額があった場合は贈与税の課税対象になる。ただし、三十歳時点で在学中や教育訓練給付の対象者であれば、四十歳まで非課税期間が延長される。

また、贈与者である勝久が亡くなった場合、その時点で残っている信託残額は相続財産に加算される(相続開始前七年以内の贈与は相続税の課税対象になるルールとは別に、この特例には専用の加算ルールがある)。

勝久は長男の誠を呼んで、すべて説明した。誠は最初、「そんな大金、受け取れない」と言ったが、勝久は首を振った。「航太の将来のためだ。俺と母さんが決めた。だから、ちゃんと領収書を保管しておいてくれ」

信託契約を結んだ日、勝久は帰り道に孫のことを思った。算数が得意なあの子が、どんな大人になるか。医者になるかもしれない。研究者になるかもしれない。あるいは、銀行員になるかもしれない。

何になっても、学ぶための資金だけは、じいちゃんが用意した。

それで十分だと、勝久は思った。

   

学びのボックス:教育資金一括贈与の非課税特例


制度の概要祖父母・父母から子・孫(30歳未満)への教育資金を信託銀行等に一括贈与した場合、受贈者1人あたり1,500万円まで贈与税が非課税。
手続きの流れ①信託銀行で専用口座を開設 ②資金を一括入金 ③教育費を支払ったら領収書を提出 ④口座から払い出し
対象となる費用学校の授業料・入学金・修学旅行積立・学習塾・家庭教師費用など。習い事は内容により制限あり。
領収書の期限原則、支払いから1年以内に提出。保管・管理が重要。
使い残しの扱い30歳到達時に残額があれば贈与税課税。在学中等は最大40歳まで延長可。贈与者死亡時の残額は相続財産に加算される。
特例の適用期限令和8年(2026年)3月31日まで。制度変更の可能性があるため最新情報を確認のこと。

※現時点でこの精度は終了予定です。制度終了後に検討したい生前の節税対策については別途掲載予定です。

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