[相続のお話]『マンション評価額』見直しの激震

マンション評価額』見直しの激震

「先生、父が生前に買ったマンションの評価が、私たちが思っていた額の倍近くになっているんですが……」

長男の西田雄介(五十一歳)が税理士の中谷先生のもとへ相談に訪れたのは、父・西田正昭(享年七十七歳)の相続手続きを始めて一ヶ月が経ったころだった。

父は三年前、都内の築二年・十五階建て分譲マンションの十二階を七千万円で購入していた。「節税になると聞いて」と父から言われた雄介は、当時あまり気に留めていなかった。相続税の申告を始めて、その言葉の意味が少しわかってきた頃——しかし税理士の試算が出て、再び混乱した。

「路線価で計算したら二千五百万円程度になるはずだったんです。なのに先生の計算では四千二百万円になっています。なぜですか」

2024年から変わった「評価の常識」

中谷先生は静かに説明した。「西田さんのお父様がマンションを購入されたのは三年前。当時はまだ旧ルールが適用される可能性がありましたが、今回の相続は今年発生しています。二〇二四年一月から、マンションの相続税評価に新しいルールが適用されています」

「どんなルールですか」

「従来の路線価方式では、マンションの評価額が市場価格(実際に売れる値段)の三〇~四〇%程度になることが珍しくありませんでした。国税庁はこの乖離が節税に利用されていることを問題視し、評価額が市場価格の六〇%を下回る場合は補正をかけて引き上げる新ルールを導入しました」

「では父が買った七千万円のマンションは……」

「市場価格の六〇%は四千二百万円です。路線価評価の二千五百万円はそれを大幅に下回りますから、補正がかかり、四千二百万円近い評価額になります。旧ルールの時代なら大きな節税効果があったはずのマンションが、新ルールではその効果がほぼ消えている状況です」

「乖離率」という新しい概念

「補正がかかるかどうか、どうやって判断するんですか」と雄介は尋ねた。

「『評価乖離率』という数値で判定します。市場価格を相続税評価額で割った数字です。この乖離率が一・六七倍以上、つまり相続税評価額が市場価格の六〇%未満になる場合に補正がかかります」

「今回の計算式は複雑ですか」

「築年数・階数・総戸数・敷地面積などの要素を組み合わせた計算式が国税庁から示されています。国税庁のウェブサイトにも試算ツールがあります。ただし正確な計算には専門家の確認が必要です。今回のような補正がかかるケースは特に、申告前に税理士と詳しく確認することをお勧めします」

「節税目的」の購入は想定通りにならない

「父が節税になると信じて買ったマンションが、結局思ったほど節税になっていない……」と雄介は肩を落とした。

「お父様が購入されたのは新ルール施行前でしたが、相続が今年発生したため新ルールが適用されました。もし二〇二三年以前に相続が発生していれば、旧ルールで評価されていた可能性があります。タイミングの問題でもありますが、二〇二四年以降はこのルールが標準になりましたので、これからマンション購入を検討する方は節税効果をあてにしない前提で考える必要があります」

「では、今できることは何かありますか」

「現状では補正後の評価額で申告するしかありません。ただ、市場価格の算定に使った根拠資料をしっかり整備することで、申告内容に説得力を持たせることはできます。また、他の財産の評価や特例の適用可能性を丁寧に確認することが、今の段階でできる最善策です」

制度を知ることが最大の防衛

申告の準備を進めながら、雄介は父が生前に担当者から受けた説明の記録を見つけた。「相続税評価額が市場価格の三分の一程度になる」という試算が書かれていた。その試算の前提となっていた旧ルールは、今はもう存在しない。

「制度は変わる」と中谷先生は言った。「特に節税を目的とした不動産購入は、購入時点の税制だけでなく、相続発生時点の税制で評価されます。生前対策は、施行中のルールだけでなく、将来の制度変更リスクも織り込んで設計する必要があります」

マンションの相続税評価は、2024年を境に大きく変わった。「マンションで相続税を減らす」という時代は終わり、正確な評価と正しい申告が求められる新しい時代が始まっている。

学びのボックス:マンション相続税評価新ルールのポイント


改正前の問題点従来の相続税評価(路線価方式)では、マンションの評価額が市場価格の30〜40%程度になることが多かった。この乖離を利用した節税(タワマン節税など)が社会問題化した。
20241月から施行された新ルール国税庁は2024年1月より、マンションの相続税評価額が市場価格(時価)の60%を下回る場合、評価額を引き上げる「乖離率補正」を導入。タワマンに限らず一般の分譲マンションも対象。
評価の仕組み(乖離率と補正)「評価乖離率」=市場価格÷相続税評価額 で算出。乖離率が1.67倍以上(評価額が時価の60%未満)の場合に補正がかかり、評価額が引き上げられる。補正後の評価額=市場価格×0.6が上限の目安。
試算の方法補正後評価額は、築年数・階数・総戸数・敷地面積などの要素を組み合わせた計算式で算出される。国税庁の「マンション評価額計算ツール」で概算が可能。税理士への相談が確実。
生前購入の「節税効果」はほぼ消滅2024年以降は新ルールが適用されるため、マンション購入による相続税の大幅圧縮は従来のように期待できない。すでに購入済みの物件については、新ルールのもとで再試算することが必要。

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