『特別の寄与』親族以外の貢献は報われるか
相続権のない姪が、家庭裁判所を通じて事業への長年の貢献を金銭的に評価してもらう
森田由美は、独身のまま人生を終えた伯父・和夫の葬儀で、複雑な思いを抱えていた。由美は和夫の姉の娘、つまり姪にあたる。和夫には子も配偶者もおらず、相続人は由美の母を含めた兄弟姉妹とその代襲相続人たちだった。由美自身は法定相続人には含まれない立場である。葬儀の場で親族が今後の遺産分割について話し始めるのを、由美はどこか他人事のような気持ちで聞いていた。
由美は二十代の頃から、和夫が営む小さな印刷会社を手伝ってきた。当初はアルバイトのつもりだったが、和夫の体調が思わしくなくなってからは、経理から営業、取引先との交渉まで一手に引き受けるようになった。給料はほとんど受け取らず、「いずれ落ち着いたら」という和夫の言葉を信じて、十五年以上、無報酬に近い形で会社を支え続けてきた。会社の売上は由美が携わるようになってから着実に伸び、廃業寸前だった経営を立て直した立役者だったと言っても過言ではなかった。自分の生活を切り詰めながら会社に尽くしてきた年月を思うと、由美の胸には複雑な感情が渦巻いていた。
和夫の遺産分割協議が始まると、由美は蚊帳の外に置かれた。相続人ではない由美には、遺産を受け取る権利がないと、集まった親族の誰もが当然のように話していた。由美自身も長い間そう思い込んでいたが、ふと立ち寄った法律相談で、思いがけない制度を知ることになる。
「相続人ではない親族でも、被相続人の療養看護や事業への貢献によって財産の維持や増加に特別の寄与をした場合、相続人に対して金銭の支払いを求めることができる『特別の寄与』という制度があります」。弁護士はそう説明した。平成三十年の民法改正で新設されたこの制度は、相続人以外の親族による無償の貢献を、金銭的に評価する仕組みだという。由美はこれまで諦めていた気持ちが、少しずつ変わっていくのを感じた。
弁護士によれば、特別寄与料が認められるためには、寄与が「無償」であること、そして通常期待される範囲を超えた「特別の」貢献であることが求められる。単なる家族としての協力ではなく、事業の維持発展に具体的に貢献したことを、客観的な資料で示す必要があるという。また、この請求ができるのは被相続人の親族に限られ、相続開始および相続人を知った時から六か月以内、または相続開始から一年以内という期間制限もあると聞き、由美は急いで動かなければならないことを悟った。由美は、長年の給与明細や会社の売上推移、取引先とのメールのやり取りなどを丁寧に集め、自分がどれだけ会社に貢献してきたかを裏付ける資料を整えた。膨大な書類を整理する作業は骨が折れたが、自分の十五年間を形に残す作業でもあった。
由美は弁護士とともに、相続人全員に特別寄与料の支払いを求める協議を申し入れた。当初は難色を示す相続人もいたが、由美が提出した資料の説得力もあり、最終的には家庭裁判所の調停を経て、一定額の特別寄与料の支払いで合意に至った。金額は由美が望んでいた額には届かなかったものの、これまでの貢献が法的にきちんと評価されたことに、由美は静かな達成感を覚えている。
支払いを受けた後、由美は会社を継いだ従兄弟から「これからも顧問として力を貸してほしい」と声をかけられた。血縁上は相続人ではなくても、事業の担い手としての由美の存在が、親族の間で改めて認められた瞬間だった。今では月に数回、経理のアドバイザーとして会社に出入りしながら、伯父が遺した仕事を見守り続けている。
学びのボックス
| 特別の寄与とは | 平成30年の民法改正で新設された制度。相続人ではない被相続人の親族が、療養看護や事業への貢献によって財産の維持・増加に特別の寄与をした場合、相続人に金銭の支払いを請求できる。 |
| 請求できる人の範囲 | 被相続人の親族(六親等内の血族、配偶者、三親等内の姻族)が対象。相続人自身や、親族に当たらない内縁関係者などは対象外。 |
| 認められるための要件 | 寄与が無償であること、通常期待される範囲を超えた「特別な」貢献であることが必要。家族としての通常の協力だけでは認められにくい。 |
| 請求期限 | 相続の開始及び相続人を知った時から6か月以内、または相続開始の時から1年以内に請求する必要がある。 |
| 請求の進め方 | まず相続人との協議で金額を話し合い、まとまらない場合は家庭裁判所に対して特別寄与料を求める調停・審判を申し立てることができる。 |
