『遺留分侵害額』を金銭で即座に請求[相続のお話]

『遺留分侵害額』を金銭で即座に請求


旧法の共有化リスクを解消した、現行法のシンプルな金銭解決

斎藤健二は、父の遺言書を見て、我が目を疑った。「全財産を長女・美咲に相続させる」。父の全財産、自宅の土地建物と預貯金のほぼすべてが、姉の美咲一人に渡るという内容だった。健二は次男で、健二の弟である三男も含めて、健二たちには一切の財産が遺されていなかった。生前、父と美咲が特別に親密だったことは知っていたが、まさかここまで露骨な遺言を残しているとは思いもよらなかった。同居して介護を担っていたのは美咲だったとはいえ、健二にとっては到底納得できる内容ではなかった。

葬儀が終わり、遺言の内容が明らかになると、健二は複雑な感情に苛まれた。父の意思は尊重したい気持ちもあったが、自分にも法律上、一定の取り分が保障されているはずだという記憶があった。健二は弁護士に相談することにした。

「兄弟姉妹以外の法定相続人には、遺言によっても奪うことのできない最低限の取り分、『遺留分』が民法で保障されています。健二さんの場合、法定相続分の二分の一が遺留分として認められます。この遺留分を侵害する遺言に対しては、『遺留分侵害額請求』という手続きで金銭の支払いを求めることができます」。弁護士はそう説明してくれた。

健二がさらに驚いたのは、この制度が以前とは大きく変わっていたという点だった。「以前の民法では『遺留分減殺請求』と呼ばれ、権利を行使すると、不動産などの現物が請求者と相手方の共有状態になってしまうことがありました。共有状態になると、その後の売却や活用のたびに双方の合意が必要になり、かえって対立が長引くケースが多かったのです。しかし平成三十年の民法改正により、現在は『遺留分侵害額請求』として、最初から金銭の支払いを求める権利に整理されました。不動産を共有する必要がなく、解決がずっとシンプルになっています」。弁護士の説明を聞いて、健二は現行制度のありがたさを実感した。

弁護士のサポートを受けながら、健二はまず内容証明郵便で美咲に対して遺留分侵害額請求の意思表示をすることにした。「この請求権には時効があります。相続の開始と遺留分を侵害する贈与または遺贈があったことを知った時から一年以内に請求しないと、権利が消滅してしまいます」との説明を受け、健二は速やかに手続きを進めた。内容証明郵便を出すという行為自体に緊張したが、これが権利を守るための正式な第一歩なのだと自分に言い聞かせた。

美咲のもとに内容証明郵便が届くと、当初は動揺した様子だったが、弁護士同士のやり取りを経て、遺留分に相当する金額を算定するための財産評価が始まった。自宅の不動産評価額や預貯金の残高をもとに、健二が請求できる遺留分侵害額が算出され、双方の弁護士の間で分割払いの条件も含めた交渉が進められた。三男も同様の請求をすることになり、美咲は二人分の遺留分侵害額を負担する見通しとなった。

最終的に、美咲は不動産を売却することなく、数年にわたる分割払いで健二に遺留分侵害額を支払うことで合意した。もし現物の共有という形になっていたら、美咲は自宅を手放さざるを得なかったかもしれない。健二は、金銭請求というシンプルな解決方法のおかげで、姉との関係を完全に断ち切ることなく、権利を実現できたことに安堵している。分割払いの最初の入金があった日、健二は美咲から短いメッセージを受け取った。「これで少しずつでも、けじめをつけていきたい」という一文に、健二はわだかまりが少しずつ和らいでいくのを感じた。

学びのボックス


遺留分とは兄弟姉妹以外の法定相続人に、遺言によっても奪うことのできない最低限の取り分として民法が保障する権利。
遺留分侵害額請求とは遺留分を侵害する遺言や贈与があった場合に、侵害された分に相当する金銭の支払いを求めることができる権利。
旧制度(遺留分減殺請求)との違い改正前は不動産などの現物が請求者と相手方の共有状態になったが、現行法では最初から金銭債権として整理され、共有化を避けられる。
請求の時効相続の開始及び遺留分を侵害する贈与・遺贈があったことを知った時から1年以内に請求しないと、権利が消滅する。
請求の進め方内容証明郵便で意思表示をしたうえで、財産評価に基づき金額を算定し、当事者間の協議や分割払いの交渉で解決するのが一般的な流れ。

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