『特別の寄与』義理の母を長年介護した長男の妻の権利[相続のお話]

『特別の寄与』義理の母を長年介護した長男の妻の権利

【特別の寄与料の請求実務】請求期限(6か月・1年)、請求額の算定、請求先の相続人を押さえて介護の苦労を金銭で評価する

中川恵子は、夫の母・千代を、八年にわたって自宅で介護してきた。夫は仕事で忙しく、食事や入浴の介助、夜中の見守りまで、ほとんどを恵子が一人で担った。千代は自宅で静かに息を引き取り、恵子は最期まで寄り添うことができた。ところが、葬儀が終わっても、千代の遺産を相続した親族から、恵子に対する感謝の言葉も、金銭的な配慮も、一切なかった。介護のために恵子は勤めていたパートを辞めており、その間の収入も失っていた。

恵子は千代の相続人ではない。法律上の相続権を持つのは、夫と、夫の弟の誠、妹の由香だった。恵子は「家族なのだから、見返りを求めるのは筋が違うのかもしれない」と自分に言い聞かせていたが、八年間の苦労が何の形にもならないことに、割り切れない思いを抱えていた。

千代の死から八か月ほど経ったころ、恵子は弁護士に相談した。「長男の妻のように、相続人ではない親族が、無償で療養看護をして被相続人の財産の維持に貢献した場合、『特別の寄与』として、相続人に金銭を請求できる制度があります」。弁護士はそう説明したうえで、すぐに続けた。「ただし、請求できる期間には厳しい制限があります。相続の開始と相続人を知った時から六か月、または相続開始から一年のうち、いずれか早い期限を過ぎると、家庭裁判所への申立てができなくなります」。

恵子は青ざめた。千代の死から八か月が過ぎており、相続開始から一年という期限までは、残り四か月ほどしかなかったのだ。弁護士は、「六か月の期間は、相続人を知った時から数えるため、今回は一年の期限が先に来る見込みです。急いで動けば間に合います」と励ました。協議に時間をかけすぎて期限を過ぎてしまうことが最も危険なので、話し合いと並行して、家庭裁判所への申立ての準備も進めておくべきだという助言も受けた。

次に弁護士は、請求額の考え方を説明した。「特別寄与料の額は、まず当事者間の協議で決めます。協議が整わなければ、家庭裁判所が、寄与の時期や方法、程度、相続財産の額などを考慮して定めます。介護の場合は、介護の日当に相当する額に介護した日数を掛け、さらに一定の割合を乗じて算定するのが実務の一般的な考え方です。そのため、いつ、どれだけ介護したかを示す記録が重要になります」。

恵子は、八年間つけてきた介護日記と、病院の通院記録、介護サービスの利用状況を整理した。弁護士は、これらをもとに、介護の内容と期間をまとめた書面を作成し、相続人である夫、誠、由香に請求書を送付した。「請求先は、各相続人です。寄与料は、それぞれの相続分に応じて負担することになります」と、弁護士は説明した。

誠と由香は当初、「そんなことは聞いていない」「家族なのだから当然だ」と反発した。しかし、日記に細かく記録された介護の実態を示され、さらに協議が整わなければ家庭裁判所の手続きに進むと伝えられると、態度を改めた。特に、夜間の見守りや通院の付き添いが毎日のように記録されていたことに、二人とも言葉を失った様子だった。話し合いの結果、誠と由香は、それぞれの相続分に応じた特別寄与料を恵子に支払うことで合意した。

この経験を通じて恵子は、特別の寄与の制度には、請求期限という大きな壁があることを痛感した。相続人でなくても正当に評価される道があること、そして、その権利を使うには、早めに動き、日々の介護を記録しておくことが何より大切だと、恵子は身をもって学んだ。支払いを受けた後、恵子は夫とともに千代の墓参りに出かけ、八年間を振り返りながら、ようやく肩の荷が下りたような気持ちで手を合わせた。

学びのボックス

特別の寄与とは相続人ではない親族(長男の妻など)が、無償で療養看護などを行い被相続人の財産の維持・増加に貢献した場合に、相続人へ金銭を請求できる制度。
請求期限家庭裁判所への申立ては、相続の開始と相続人を知った時から6か月、または相続開始から1年のいずれか早い期限までに行う必要がある。
請求額の算定まず当事者間の協議で決め、整わなければ家庭裁判所が寄与の時期・方法・程度、相続財産の額などを考慮して定める。介護の日当×日数×一定割合が実務上の目安。
請求先は各相続人請求は相続人に対して行い、各相続人は特別寄与料の額に自分の相続分を乗じた額を負担する。
介護記録の重要性介護日記、通院記録、介護サービスの利用状況など、いつ・どれだけ介護したかを示す記録が、寄与の程度を示す証拠になる。

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