『離婚した前妻との間の子供』疎遠な異母兄弟へ送る手紙と協議の進め方
内田健一は四十八歳。八十六歳で亡くなった父・清の相続で、遺産分割の準備を始めた。母は父の後妻で、健一と妹の恵は、母との間に生まれた子だ。相続の手続きのため、父の出生から死亡までの戸籍を取り寄せると、古い戸籍の中に、見知らぬ名前があった。「長女 佐々木由紀、昭和五十四年生まれ」。父が、母と再婚する前に結婚していた前妻との間の子だった。
健一は、父の過去を、ほとんど知らなかった。母に尋ねると、母は少し黙ってから答えた。「結婚する前に、一度離婚していたことは聞いていたの。でも、子どもがいたとは、知らなかった」。前妻との子も、父の子であり、健一たちの異母姉にあたる。法定相続人の一人だ。遺産分割は、相続人全員で行わなければ無効になる。避けては通れなかった。
遺産は、母が暮らす自宅の約三千万円と、預貯金の約三千万円。合計約六千万円。法定相続分は、母が二分の一の三千万円で、子の三人が、それぞれ六分の一の約千万円だった。健一は悩んだ。母や妹に、どう説明すればよいのかも、分からなかった。面識のない異母姉に、いきなり手紙を出したり、電話をかけたりしたら、驚かせてしまうだろう。相手は、父に会えなかったことを、どう思っているのか。
悩んだ末、健一は、弁護士に相談した。弁護士は言った。「ご本人から直接連絡するより、第三者の私どもが、丁寧にご連絡するほうが、お互いにとって安心です。突然の電話や、SNSでの連絡は、感情的な行き違いを生みやすいのです。前妻のお子さんでも、法定相続分は、後妻のお子さんと、まったく同じです」。弁護士は、戸籍の附票などを調べて、由紀さんの現在の住所を確認した。
弁護士は、健一と相談しながら、手紙の文面を作った。まず、父が亡くなったこと、由紀さんが法定相続人であることを、丁寧に伝える。次に、遺産の内容を、財産目録として開示する。遺産分割協議への参加をお願いし、返事の期限は、無理のない余裕を持たせた。「弁護士を通じて、突然のご連絡となりました失礼をお詫びいたします」という一文も添えた。
二週間後、由紀さんから、弁護士に電話があった。声は落ち着いていた。「驚きましたが、お手紙は丁寧で、安心しました。父のことは、ほとんど覚えていません。ただ、父の最期が、どうだったのかは、知りたいと思っていました」。健一は、弁護士を通じて、父の晩年の様子と写真を、由紀さんに送った。父が晩年、古い手帳に由紀さんの名前を書き留めていたことも、手紙に添えた。由紀さんは、電話の向こうで、しばらく黙っていた。
遺産の分け方についても、話し合いは穏やかに進んだ。母が自宅を相続し、預貯金から約千万円を、由紀さんに支払う。健一と恵は、預貯金の残りを分ける。由紀さんは、法定相続分どおりの約千万円で、納得した。遺産分割協議書には、全員が署名し、実印を押し、印鑑証明書を添えた。
もし、由紀さんが相続したくないと考えたら、家庭裁判所で相続放棄をする方法もある。ただし、期限は、相続の開始を知ってから三か月以内。連絡が遅れると、相手の選択を狭めてしまう。弁護士は、そう付け加えた。
健一は今、こう話している。疎遠な相続人への連絡は、感情のもつれを避けるため、専門家を介し、礼儀を尽くして行うこと。遺産の内容は、隠さず開示すること。父の過去を知らなかったことを悔やんだ健一だったが、手紙のおかげで、父を通じた新しい縁も生まれた。
学びのボックス
| 前妻の子も法定相続人 | 前妻との間の子も、被相続人の子として法定相続人になる。法定相続分は、後妻の子と同じ。 |
| 全員参加の遺産分割協議 | 遺産分割協議は相続人全員で行う必要がある。一人でも欠くと協議は無効になる。戸籍で相続人を確認する。 |
| 連絡は専門家を介して | 面識のない相続人には、弁護士や司法書士を通じて丁寧に連絡する。突然の電話やSNSでの連絡は避ける。 |
| 手紙に書くべき内容 | 被相続人の死亡、相手が法定相続人であること、財産目録の開示、協議への参加依頼、返事の期限、突然の連絡へのお詫び。 |
| 相続放棄と協議書 | 相手が相続放棄を選ぶこともあるため、期限(知ってから3か月)に配慮する。協議書には全員の署名・実印・印鑑証明書が必要。 |
