『書面添付制度(33条の2)』税務調査率を劇的に下げる専門家の保証書[相続のお話]

『書面添付制度(33条の2)』税務調査率を劇的に下げる専門家の保証書

吉田直樹は五十五歳。八十四歳で亡くなった父の相続税申告を、妹の美穂、母と進めていた。遺産は、自宅と預貯金、有価証券で約八千万円。申告の期限は、あと半年ほどに迫っていた。母は高齢で、手続きの多くを、直樹が引き受けていた。

直樹には、一つ心配があった。母名義の預金口座だ。父が生前、生活費の管理のために作った口座で、母自身はほとんど使っていない。税務署から、名義預金ではないかと疑われるのではないか。税務調査と聞くだけで、胃が重くなった。知人が、調査で三日間、書類を探し回ったと話していたのも、思い出された。

相談した税理士の岡田さんは、書面添付制度を勧めてくれた。直樹は、初めて聞く言葉に、戸惑った。「申告書に、私がどんな資料を確認し、どう計算したかを書いた書面を添付します。税理士法に定められた制度です。税務署が調査を考えるときも、先に私の意見を聞く手続きがあります」。

書面添付制度とは、税理士が、申告書の計算や整理の過程、相談を受けた事項などを書面にして添付するものだ。この書面があると、税務署は、調査の前に、税理士の意見を聴く機会を設ける。その場で疑問点が解消されれば、実地調査に進まないこともあると考えられている。ただし、調査が行われないことを保証する制度ではない。

岡田さんは、書面に書く内容を、直樹に一つずつ説明した。書面は、税務署に向けた申告の説明書のようなものだという。母名義の口座は、資金の出どころ、通帳や印鑑の管理者、母の収入の有無を確認したうえで、名義預金に当たるかを判断した過程を記す。不動産は、評価の根拠や、路線価の使い方を書く。有価証券は、評価日の価格をどの資料で確認したかを書く。生前の贈与の有無も、資料にもとづいて確認した内容を記す。

そのために、直樹は、家族と一緒に、通帳の履歴を十年分さかのぼった。父の口座から母の口座へ入金された記録、母が使った形跡の有無、印鑑の保管場所。母も、自分の記憶をたどって話してくれた。「お父さんが、毎月ここに入れてくれていたのよ」と、母は静かに言った。夜遅くまで、三人で通帳を囲む日もあった。調べるうちに、母名義の口座は、実質的には父の財産だったと分かり、相続財産に含めて申告することになった。

岡田さんは、「書面は、私が責任を持って作ります。内容に誤りがあれば、私が税理士としての責任を問われます」と話した。書面添付は、税理士の義務ではなく任意の制度で、事務所ごとに、通常の報酬に加えて、追加の費用がかかることが多い。直樹の場合は、約五万円だった。

申告から約一年後、税務署から岡田さんに連絡が入った。調査の前に、書面の内容について、意見を聴きたいという。直樹は、その知らせを聞いて、胸が高鳴った。岡田さんは、母名義の口座の扱いを、資料を示しながら説明した。税務署の担当者は、いくつか質問を重ねたという。説明のあと、直樹のもとに、実地調査の連絡は来なかった。

岡田さんは、結果をこう話した。「書面添付があれば、必ず調査が来ないわけではありません。ただ、税務署に、どう考えて申告したかを、きちんと伝えられる。それが、この制度の意味です」。

直樹は今、こう思っている。調査が来ないことより、家族で資料を確認し、納得して申告できたことが大きかった。相続税の申告を依頼するときは、書面添付をしてもらえるか、費用はどのくらいかを、先に税理士に聞いてみる価値がある。そして、書面の内容は、依頼者も、一度は目を通しておきたい。

学びのボックス

書面添付制度とは税理士が、申告書の計算や整理の過程、相談を受けた事項を書面にして添付する制度。税理士法に定められており、利用は任意。
税務署の意見聴取書面が添付されていると、税務署は調査の前に税理士の意見を聴く機会を設ける。疑問が解消されれば実地調査に進まないこともあると考えられている。
保証書ではない調査が行われないことを保証する制度ではない。意見聴取のあとに調査が行われる場合もあり、結果は個別の事情により異なる。
費用と責任通常の報酬に加えて追加費用がかかることが多い。書面の内容に誤りがあれば、税理士が責任を問われる場合がある。
依頼するときの確認書面添付を扱っているか、費用はいくらかを事前に確認する。名義預金や贈与の確認資料は、家族も協力して早めに整えたい。

この記事を書いた人

souzoku-ad


家族信託・よくあるご質問
家族信託・用語集
このサイトについて
よくあるご質問
用語集
お問い合わせ