『相続税の税務調査』狙われる「家族名義の口座」[相続のお話]

『相続税の税務調査』狙われる「家族名義の口座」

【名義預金と税務署の追跡能力】正当な贈与と認められるための3大条件(契約書・自己管理・申告)

西田良子は、夫の隆一を亡くしてから一年ほど経ったころ、税務署の調査官が自宅を訪れるという知らせを受けた。相続税の申告は、顧問税理士のサポートを受けながらきちんと済ませたはずだった。良子は落ち着かない気持ちのまま、調査当日を迎えた。隆一は生前、几帳面な性格で、家計簿や通帳の管理も自分ですべて行う人だった。

調査官は、良子や息子夫婦の名義の預金通帳を次々と確認していった。「奥様名義のこの口座、毎年同じ時期に百十万円ほどの入金がありますね。これはどなたからの入金でしょうか」。良子は「夫が生前、贈与してくれていたものです」と答えた。しかし調査官は、さらに踏み込んだ質問を続けた。「この通帳と届出印は、どなたが管理されていましたか」。

良子は正直に答えた。「主人が管理していました。通帳も印鑑も、主人の部屋の引き出しにしまってあったんです」。調査官はその答えを聞くと、静かにこう告げた。「その場合、この口座は形式上は奥様名義になっていますが、実質的には隆一様が管理支配していた財産、いわゆる『名義預金』とみなされる可能性が高いです。名義預金は、名義人ではなく、実際に管理していた方の相続財産として扱われます」。

良子は言葉を失った。夫が長年、家族のためにと思って続けてきた贈与のつもりが、税務上はまったく別の扱いを受けるというのだ。税理士に改めて相談すると、こう説明された。「贈与が正当に成立したと認められるためには、いくつかの条件を満たしておく必要があります。まず、贈与契約書を作成し、贈与者と受贈者双方の合意があったことを書面で残しておくこと。次に、受贈者自身が通帳や印鑑を管理し、いつでも自由にそのお金を使える状態にあったこと。そして、基礎控除を超える贈与であれば、受贈者自身が贈与税の申告をしていることです」。この三つがそろって初めて、税務署に対して贈与の実態をきちんと説明できるのだという。

「隆一さんの場合、贈与契約書は作成されておらず、通帳や印鑑も本人が管理し続けていました。贈与税の申告も行われていません。この三つの条件がいずれも満たされていないため、税務署が名義預金と判断したのも無理はない状況でした」。良子は、夫の思いやりが、結果として家族に重い税負担を残すことになったという皮肉な現実に、複雑な思いを抱いた。良子自身、口座にお金が振り込まれていることは知っていたが、それを自由に引き出したり使ったりしたことは一度もなかった。

結局、良子や息子夫婦名義の口座に積み立てられていた資金は、隆一の相続財産として扱われ、修正申告のうえで追徴の相続税を納めることになった。贈与税の申告漏れについても、あわせて指摘を受け、想定していなかった負担が重なることになった。長年、家族のためにと積み立ててきたはずのお金が、結果的に相続財産として扱われることになったのは、良子にとって何とも言えない気持ちだった。

この経験を通じて良子は、家族への思いやりのつもりで続けてきた入金であっても、形式が整っていなければ、税務上は正当な贈与として認められないことを痛感した。今後、同じように家族に財産を渡したいと考える人には、契約書の作成、受贈者自身による管理、そして贈与税の申告という三つの条件を、必ず押さえておいてほしいと、良子は自らの経験を通じて伝えたいと感じている。修正申告を終えた後、良子は自分名義の口座の通帳と印鑑を、改めて自分自身の手できちんと管理するようになった。

学びのボックス

名義預金とは口座名義人と、実際に資金を拠出・管理していた人が異なる預金。名義人ではなく実質的な管理者の相続財産として扱われる。
正当な贈与と認められる条件①契約書贈与者と受贈者双方の合意を示す贈与契約書を作成し、書面で残しておくことが望ましい。
正当な贈与と認められる条件②自己管理受贈者自身が通帳や印鑑を管理し、いつでも自由にそのお金を使える状態にあることが重要。
正当な贈与と認められる条件③申告基礎控除を超える贈与であれば、受贈者自身が贈与税の申告を行っていることが求められる。
税務調査で確認されるポイント資金の拠出者、通帳・印鑑の管理者、契約書や申告の有無などを総合的に見て、名義預金かどうかが判断される。

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