『遺言書の破棄・隠匿』で相続権を失う恐怖[相続のお話]

『遺言書の破棄・隠匿』で相続権を失う恐怖


遺言書を破り捨てた次男が相続権を剥奪され、子(孫)へ代襲相続される厳格な法律のペナルティ

坂上健二は、父の遺品整理をしていた際、書斎の引き出しの奥から一通の封筒を見つけた。中には自筆証書遺言書が入っており、震える手で開封してみると、そこには「自宅の土地建物と預貯金の大半を長女・恵子に相続させる」と書かれていた。健二への言及はほとんどなく、生前から折り合いの悪かった父が、最後まで自分を切り捨てたのだと感じた健二は、怒りに任せてその場で遺言書を引き裂いてしまった。破いた紙片をゴミ袋に詰めながら、健二は自分の行為の重さにまだ気づいていなかった。長年、父との確執を抱えてきた健二にとって、この遺言はまさに最後通牒のように感じられたのだった。

数日後、恵子が「父の遺言書があったはずだ」と言い出したことで、健二は追い詰められた。健二はとっさに「そんなもの見ていない」と嘘をついたが、恵子は父から生前に遺言書の存在を聞かされており、また書斎を整理していた健二の様子を不審に思っていた。恵子は弁護士に相談し、健二が遺言書を隠していたのではないかと追及する構えを見せた。

追い詰められた健二は、最終的に弁護士を通じて事実を認めた。遺言書を見つけ、その内容に納得できず、破り捨ててしまったと。この告白を受けた恵子側の弁護士は、健二に対して衝撃的な事実を告げた。「遺言書を破棄する行為は、民法が定める『相続欠格』の事由に該当します。相続に関して有利になることを目的として、被相続人の遺言書を偽造し、変造し、破棄し、または隠匿した者は、法律上当然に相続権を失うとされています」。

健二は耳を疑った。「破ってしまったことは軽率だったが、まさか相続権そのものを失うことになるとは思わなかった」というのが健二の本音だった。しかし弁護士は続けた。「相続欠格は、家庭裁判所の審判や特別な手続きを経なくても、要件に該当する事実があれば当然に効力が生じるとされています。今回のケースでは、健二さんが遺言の内容に不満を持ち、自分に有利になるよう遺言書を破棄した経緯が明らかであり、相続欠格に該当する可能性が非常に高いです」。健二は、単に感情的になっただけのつもりが、法律上は明確な「不正の目的」があったとみなされてしまうのだと知り、言葉を失った。

恵子は健二の相続権を争う調停を家庭裁判所に申し立てた。審理の中で、健二が遺言書を破棄した経緯や動機が詳しく検討された結果、健二の相続欠格が認められることとなった。健二は父の遺産を一切相続できなくなり、その相続分は、健二の子である孫が代襲相続することになった。相続欠格者本人は相続権を失っても、その子には独立した代襲相続権が認められるため、健二自身は何も受け取れないまま、自分の子供が祖父の遺産を引き継ぐという、皮肉な結果を招くことになったのである。

この一件を通じて健二は、感情に任せた一瞬の行動が、これほど重い法的な結果を招くとは想像もしていなかったと振り返る。健二の息子はまだ成人したばかりで、思いがけず祖父の遺産を引き継ぐことになった事実に戸惑いながらも、代襲相続の手続きを進めることになった。健二自身は、息子が受け取った遺産の管理に口を出すことすらできない立場に置かれ、複雑な思いを抱えながら日々を過ごしている。父との確執を最後まで解消できなかったことへの後悔と、自分の一時的な感情が息子の人生にまで影響を及ぼしたことへの自責の念が、今も健二の胸から離れない。遺言書に不満があっても、それを破棄したり隠したりすることは、決して許されない重大な行為なのだと、健二は苦い経験から学んだ。

学びのボックス

相続欠格とは民法891条が定める、一定の重大な非行があった相続人が法律上当然に相続権を失う制度。
遺言書の破棄・隠匿も欠格事由相続に関して有利になる目的で、被相続人の遺言書を偽造・変造・破棄・隠匿した者は相続欠格に該当する。
審判等の手続きは不要相続欠格は、家庭裁判所の審判や特別な手続きを経なくても、要件に該当する事実があれば当然に効力が生じる。
代襲相続への影響相続欠格者本人は相続権を失うが、その子には独立した代襲相続権が認められ、欠格者に代わって相続人となる。
感情的な行動のリスク遺言の内容に不満があっても、破棄や隠匿は不正な目的があったとみなされやすく、取り返しのつかない結果を招く。

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