[相続のお話] 実家の『名義変更』を放置したツケ

実家の『名義変更』を放置したツケ

「登記なんて、いつかやればいいか」——その「いつか」が、十年という歳月になってしまった。
不動産仲介業者から「売れますよ」と声をかけられた小林由佳(四十八歳)が、実家の登記簿を確認したのは昨年の春のことだった。土地と建物の名義人欄に書かれた名前を見て、由佳は凍りついた。
「小林周二」——十年前に他界した祖父の名前がそのままになっていた。


名義変更を「あとで」にしていた理由
祖父・周二が亡くなったとき、父・隆一(当時五十二歳)は「登記は費用もかかるし、急いで売るわけでもないから後回しでいい」と言った。家族も誰も反論しなかった。
ところが二年前、その父・隆一も心臓疾患で急逝した。そして昨年、祖母も老衰で逝った。
三つの相続が折り重なったまま、実家の登記は一度も動いていない。


「誰の同意が必要か」の衝撃
司法書士の田所先生に相談すると、深刻な表情で現状を説明された。
「周二さんの相続人は、隆一さん(既に他界)・叔父の克典さん・叔母の房子さんの三名でした。しかし隆一さんが亡くなっているため、隆一さんの相続分は由佳さんとお母様が引き継いでいます。さらに祖母も亡くなっているため、祖母の相続分も別途処理が必要です」
田所先生が相続関係図を広げると、関係者の人数は合計九名にのぼった。克典叔父の子供(従兄弟)二人、房子叔母の子供(従兄弟)三人、そして由佳・弟・母の三人だ。
「全員から署名・実印をもらわなければ、登記はできません。一人でも拒否すれば、売却は不可能です」


2024年、法律が変わった
「しかも今年から、相続登記は義務になりました」と田所先生は続けた。
二〇二四年四月一日施行の改正不動産登記法により、相続を知った日から三年以内に登記することが義務付けられた。義務化以前の相続も対象で、二〇二七年三月三十一日までに登記しなければならない。正当な理由なく放置した場合、十万円以下の過料が科される。
「まだ間に合います。ただ、今から動かないと本当に手遅れになります」


九人を動かす、半年の奮闘
由佳は田所先生と分担し、九名への連絡を始めた。克典叔父は快く協力してくれたが、房子叔母の長男・智彦とは連絡が取れるまで三ヶ月かかった。その間、田所先生は「相続人申告登記」という暫定措置を活用し、義務履行のタイムリミットをひとまず回避した。
半年後、ようやく全員の署名と実印が揃った。登記が完了した日、由佳は法務局の帰り道にため息をついた。
「あのとき父がすぐに登記していれば、こんなに大変じゃなかったのに」
相続登記の放置は、時間が経つほど関係者が増え、手続きが複雑になる一方だ。義務化された今、「いつか」では遅い。相続が発生したら、名義変更を最初の優先事項にする——それが、次の世代に贈れる最大の贈り物だ。

学びのボックス:相続登記義務化のポイント

相続登記の義務化(2024年)2024年4月1日施行。相続を知った日から3年以内に相続登記が義務付けられた。義務化前の過去の相続も対象で、2027年3月31日までに登記が必要。
放置のリスク:過料正当な理由なく期限内に登記しない場合、10万円以下の過料(行政上の制裁金)が科される。
数次相続の複雑化登記を放置している間に相続人が亡くなると数次相続が発生し、権利関係が連鎖的に複雑化する。協議に必要な関係者が数十人規模になることも。
相続人申告登記の活用相続登記の完了が難しい場合、まず「相続人申告登記」をすることで義務履行とみなされる。本登記の前に義務を一時的に果たす暫定措置として利用できる。
早期登記のすすめ相続が発生したら3ヶ月以内を目安に登記手続きに着手することが理想。司法書士への依頼で書類収集から申請まで代行してもらえる。

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