『親の土地に子が建てた家』の権利関係
地代を払わない土地利用が贈与とみなされないための税務実務
中山浩一は、父が所有する広い敷地の一角に、二世帯住宅ではなく完全に独立したマイホームを建てることにした。土地の名義は父のままで、浩一は土地代を一切支払わず、建物だけを自分の資金で建てた。地代のやり取りも特に決めておらず、家族なのだからそれで当然だろうと、浩一も父も深く考えていなかった。近所付き合いも良好で、休日には父の畑仕事を手伝うような、穏やかな親子関係だった。
新居が完成してしばらく経ったころ、浩一は不動産に詳しい知人から、思いがけない話を聞かされた。「地代を払わずに他人の土地に家を建てると、場合によっては借地権の贈与を受けたとみなされて、贈与税がかかることがあるらしいよ」。浩一は驚き、慌てて税理士に相談することにした。
「まず整理しておきたいのは、地代を支払わずに土地を使用する関係は、法律上『使用貸借』と呼ばれ、対価を伴う『賃貸借』とは区別されるという点です」。税理士はそう説明した。「借地権が問題になるのは、地代を支払っている賃貸借関係において、借地権自体に経済的な価値が生じる場合です。使用貸借のように、地代の支払いが一切ない場合には、国税庁の長年の取り扱いにより、借地権の価額はゼロとして扱われます。したがって、浩一さんが借地権相当額の贈与を受けたとみなされて贈与税が課税されることは、通常はありません」。
浩一は胸をなで下ろしたが、税理士はさらに注意点を付け加えた。「ただし、これは飽くまで無償で貸し借りしている実態が明確であることが前提です。中途半端に少額の地代を支払っていたり、当事者間の認識があいまいなままだったりすると、税務署から実質的に借地権が設定されているのではないかと疑われるおそれがあります」。浩一は、以前近所づきあいのつもりで固定資産税の一部だけを父に渡していたことを思い出し、その中途半端さがかえって誤解を招きかねないと知って肝を冷やした。
税理士は、こうしたリスクを避けるための実務上の対応として、「土地の使用貸借に関する確認書」を税務署に提出しておくことを勧めてくれた。「これは、当該土地が使用貸借であり、地代のやり取りがないことを、当事者双方の合意のもとで書面化し、税務署に届け出ておくものです。義務ではありませんが、後々の税務調査で説明を求められた際に、経緯を客観的に示せる資料になります」。
浩一は父と相談し、確認書を作成して税務署に提出した。固定資産税相当額の一部を渡していた慣習もこの機会にきっぱりとやめ、完全な無償使用であることをはっきりさせることにした。あわせて、将来父の相続が発生した際には、この土地は使用貸借のままであった経緯を踏まえて評価されることも、税理士から教えてもらった。使用貸借の場合、土地の相続税評価は更地としての評価額がそのまま用いられ、借地権割合による減額は適用されないという点も、浩一はこの機会にしっかりと理解した。将来の相続税額をある程度見込んだうえで、資金準備の計画も併せて立てておくことにした。
この一件を通じて浩一は、家族間の何気ない土地の貸し借りにも、税務上のルールがきちんと存在することを学んだ。当たり前だと思っていたことほど、後から思わぬ形で問題になり得るのだと、浩一は身をもって実感している。数年後、浩一の妹も実家の隣に家を建てることになった際、浩一は自分の経験をもとに、最初から税理士に相談するよう妹に勧めた。
学びのボックス
| 使用貸借と賃貸借の違い | 地代の支払いがない土地利用は「使用貸借」、対価を伴う土地利用は「賃貸借」として法律上区別される。 |
| 使用貸借における借地権の扱い | 地代の支払いが一切ない使用貸借の場合、国税庁の取り扱いにより借地権の価額はゼロとされ、借地権相当額の贈与とはみなされない。 |
| 中途半端な地代のリスク | 少額の地代を支払っていたり当事者の認識があいまいだと、実質的に借地権が設定されているのではないかと税務署に疑われるおそれがある。 |
| 土地の使用貸借に関する確認書 | 使用貸借であることを当事者双方の合意のもとで書面化し、税務署に届け出ておくことで、後の税務調査に備えられる。 |
| 相続時の評価への影響 | 使用貸借の土地は、相続税評価上、更地としての評価額がそのまま用いられ、借地権割合による減額は適用されない。 |
