『相続税の延納』金銭納付が困難な場合の担保提供と利息(利子税)[相続のお話]

『相続税の延納』金銭納付が困難な場合の担保提供と利息(利子税)

福島拓真は五十二歳。八十五歳で亡くなった父から、自宅の土地建物と、賃貸アパート一棟を相続した。母は早くに亡くなり、兄弟もいない。相続人は拓真ひとりだった。財産は、自宅が約七千万円、アパートが約四千万円、預貯金が約七百万円。合計約一億千七百万円で、そのほとんどが不動産だった。

税理士の試算を聞いて、拓真は青ざめた。父の死から数か月、手続きに追われ、疲れ切っていたところだった。基礎控除の三千六百万円を引いても、課税遺産総額は約八千百万円。相続税は、約千五百四十万円。ところが、拓真が自由に使える現金は、父の預貯金の約七百万円だけだった。一括で払うことは、とてもできなかった。アパートの家賃収入も、ローンの返済や修繕費で、ほとんど残らない。

「不動産を売って、払うしかないのでしょうか」。拓真が尋ねると、税理士は首を振った。「その前に、延納という方法があります。相続税は、原則、現金で一括納付です。しかし、金銭で納付することが困難な場合は、担保を提供して、年払いの分割で納められます。最長で二十年です」。拓真は、少しだけ、息をついた。長年暮らした実家と、父が守ってきたアパートを、手放さずに済むかもしれない。

延納が認められるには、条件がある。税理士は、順に説明した。第一に、相続税額が十万円を超えていること。第二に、金銭で納付することを困難とする事由があること。第三に、担保を提供すること。ただし、延納する税額が百万円以下で、期間が三年以下なら、担保は不要になる。そして、申請は、納付期限、つまり亡くなってから十か月以内に、税務署へ行わなければならない。

「金銭納付が困難かどうかは、どう判断されるのですか」。税理士は、拓真の資金を整理した。預貯金など、すぐ使える現金から、当面の生活費や事業の経費を差し引いた額が、納付できる額になる。拓真の場合、手元の現金七百万円から、生活費などを引くと、納付可能な金額は約四百五十万円。残りの約千九十万円が、延納の対象になる計算だった。

延納期間は、相続財産に占める不動産の割合で決まる。拓真の財産は、九割以上が不動産。この場合、不動産に対応する税額は、最長二十年の分割になる。担保は、アパートの土地建物にした。評価額が、延納する税額と利子税を、十分上回っていることが大切で、抵当権の設定登記などの手続きが必要になる。

延納には、利子税がかかる。税理士は、仮の例で説明した。「利子税の割合は、毎年見直され、近年は、特例で、低く抑えられています。仮に年一パーセントとすれば、延納する約千九十万円には、初年度で約十一万円です。年を追うごとに、元本が減るので、利子税も減っていきます」。なお、利子税は、所得税の経費にできない。

拓真は、延納申請書と担保提供の書類を、期限内に税務署へ提出した。審査には、数か月かかった。担保の評価について、税務署から追加の資料を求められる場面もあったが、税理士と協力して、無事に許可を得た。アパートの家賃収入を、年払いの返済に充てた。もし延納も難しければ、不動産で納める物納という方法もある。だが、まず延納を検討するのが、一般的だと、税理士は言った。

拓真は、いま、同じ立場の相続人に、毎年の返済の通知書を見せながら、こう話している。相続税は、現金がなくても、あきらめず、早めに税理士へ相談すること。申請の期限は、十か月。不動産を急いで売る前に、延納という道を、探してほしい。

学びのボックス

延納とは相続税は原則、現金一括納付。金銭で納付することが困難な場合に、担保を提供して分割で納める制度。不動産が多い場合は最長20年。
延納の要件相続税額が10万円超、金銭納付を困難とする事由がある、担保の提供がある(税額100万円以下・期間3年以下なら不要)。
申請の期限と窓口納付期限(死亡後10か月以内)までに、延納申請書と担保関係書類を税務署に提出する。審査に数か月かかることがある。
納付可能額の考え方預貯金など手元の現金から、当面の生活費や事業の経費を差し引いた額が納付できる額。残りが延納の対象になる。
利子税と物納延納には利子税がかかり、割合は毎年見直される。利子税は所得税の経費にできない。延納も困難なら物納を検討する。

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