[学ぶ・知る]所有不動産記録証明制度とは

所有不動産記録証明制度とは

所有不動産記録証明制度
相続登記が必要な不動産を容易に把握することができるよう、登記官において、特定の被相続人が登記簿上の所有者として記録されている不動産を一覧的にリスト化し、証明する制度が新たに設けられました(令和8年2月2日施行)(不動産登記法第119条の2)。

相続登記が行われないことを主な原因とする「所有者不明土地の増加」がかねてより大きな社会問題となっていましたが、その予防策のひとつとして整備されたのが相続登記の義務化です
相続登記の申請義務化の実効性を確保するための環境整備として、相続人申告登記という新たな登記が設けられたほか、登録免許税の免税措置などとあわせて所有不動産記録証明制度を設けることで手続き負担を軽減するながれとなっています。

【新設された、またはされる予定の制度】
◆相続人申告登記
◆相続登記の登録免許税の負担軽減
◆所有不動産記録証明制度 など
(※「相続人申告登記」と「登録免許税負担軽減」についてはこちらをご参照ください)

所有不動産記録証明制度の概要

(1)現状の問題点
現行の不動産登記法上では、登記情報は不動産ごとに作成されており、全国の不動産の中から特定の者(例えば被相続人)がどの不動産を所有しているかを網羅的に抽出・調査する仕組みはありませんでした。その結果、家族が死亡しその相続手続きをする際に、被相続人がどの不動産を所有していたかを相続人が把握しきれず、見逃された不動産について相続登記がされないまま放置されてしまう事態が少なからず発生していました。
(2)所有不動産記録証明制度とは
そこで考えられた制度が「所有不動産記録証明制度」です。
これは、特定の者が所有権登記名義人として記録されている不動産を一覧的にリスト化し、証明する制度です。
相続登記の義務化に伴い、相続人において被相続人名義の不動産を把握しやすくすることで。相続登記の申請にあたっての手続的負担を軽減するとともに相続登記漏れを防止する観点からこの制度が新設されました。
 
(3)誰が請求できますか
本人(個人・法人)(※自らが所有権登記名義人として記録されている不動産について請求可能)
相続人その他の一般承継人(※被相続人その他の被承継人に係る不動産について請求可能)
 
ある特定の者が所有権登記名義人として記録されている不動産を一覧的に把握するニーズは、より広く生存中の自然人(個人)のほか、法人についても認められるとの指摘がされていることから、これらの者についても所有不動産記録証明制度の対象としつつ、プライバシー等も考慮された結果、請求権者が上記の通り限定されました。
単純に、個人を対象とした「所有権登記名義人の相続登記漏れを防止させる為の仕組み」にとどまらず、生存中の個人及び法人についても対象とされていることから、自己所有不動産の確認方法としても高い利便性を持つものになると考えられます。
 
(4)いつから施行されるのか
所有不動産記録証明制度は令和3年の不動産登記法改正により新設された制度ですが、令和8年2月2日施行予定となっています。

登記事項証明書の問題点

不動産の調査・特定の対象となる情報は、今の制度下でも「登記事項証明書」を請求すれば確認できます。取り寄せにあたっては、次のような条件があり、名義人ごとに持っている土地・建物をすべて特定したい場合には向きません。

登記事項証明書の問題点
・登記された情報のうち地番などが全くわからないと請求できない。
・登記簿の管理形式から、土地・建物ごとの請求になる
・登記名義人(所有者の氏名・住所)の情報だけでは取り寄せ不可。

これに対して、新制度による証明書は、登記名義人の情報があれば、全国の登記簿から不動産情報を名寄せしてくれます。これにより、登記された情報(地番や住所など)が全くわからない場合でも請求できる。登記名義人単位で、全国の不動産一覧が出てくるため不動産の調査・特定に向いています。

固定資産税の納税通知書や役場の課税台帳による調査

今の制度下では、相続した土地・建物の調査は、固定資産税の課税情報を使って行います。課税にあたって市区町村が情報管理していることから、届いている納税通知書や役場の課税台帳を見れば、一覧化された不動産情報がわかるというものです。
問題は、固定資産税の課税や通知方法のしくみから、確実にすべての不動産を調査できるとは限らない点にあります。
具体的な問題点はこちらです。

    1最近の取得不動産の情報は確認できない可能性がある
    2共有または非課税の不動産は確認できない可能性がある
    3市区町村が異なる不動産は別途に調査が必要
    4未登記・未届の不動産は調査できない

固定資産税の納税通知書

固定資産税の納税通知書または課税明細書を受け取っていれば、その書類に不動産を特定できる情報の記載されています。記載されている不動産の地番・家屋番号をもとに登記事項証明書を請求すれば、不動産を特定することが可能です。

ただし、一定のエリア内の所有する不動産の情報がすべて上記書類に記載されているとは限りません。
1最近得た不動産の情報は確認できない可能性がある
遺品やエンディングノートから見つかった納税通知書などについては、最新年度分のものとは限りません。見つかっていない最近の課税年度分で、建物の新築・土地の購入などにより、所有状況に変更がある可能性があります。

2共有または非課税の不動産は確認できない可能性がある
共有する不動産の固定資産税納税通知書については、共有の代表者だけに発送されるのが一般的です。そのため、以前の相続などで被相続人から相続された不動産が共有持分出会った場合については、手元に固定資産税納税通知書が届かなく、この情報を見落としている可能性があります。
また所有している不動産について固定資産税が課税されない評価の低い不動産については、通知が届きません。

名寄せ(固定資産税の課税台帳を名寄せで閲覧する場合)

市区町村にある所有不動産をすべて確認したいのであれば、役場に行って課税台帳を閲覧させてもらうのが確実です。必要な情報を提示すれば、亡くなった所有者の情報に基づいて名寄せを行ってもらえます。
この場合にも、固定資産税の課税のしくみ上、調査漏れの可能性がなお存在します。

3ほかの市区町村にある不動産は別途調査が必要
固定資産税の課税は土地・建物が所在する市区町村単位で行っているため、課税台帳についてはもこれに準じて作成されています。市区町村をまたがって他の地域にも不動産を所有している場合には、それぞれの市区町村役場で課税台帳を閲覧しなければなりません。例えば東京都渋谷区と東京都港区に不動産を所有していた被相続人の財産調査をする際には、渋谷区で発行される名寄帳には渋谷区の不動産しか記載されておらず、港区の不動産については記載されないため別途港区で名寄せをする必要があるという事です。

4未登記・未届の不動産は調査できない
固定資産税の課税台帳にあるのは、毎年1月1日時点で登記簿が作成されて権利関係の登記が完了しているものか、本人が役場に届け出た不動産だけです。相続開始直前の新築物件・購入物件は、登記も届出もないこと自体が記載されません。
以上のように、固定資産税の課税情報を使った調査は、どちらの方法でも完全に調査をすることは難しいと言えます。これに対し、これからおこなわれる登記簿の名寄せを行う所有不動産記録証明制度であれば、地域・所有権の状態・課税の有無にかかわらず、対象者である被相続人等の所有するすべての土地・建物を基本的には調査できるものと考えられます。被相続人の財産把握の観点で非常に有用であり、相続登記漏れ防止の対応策として広く活用されていく事が見込まれます

所有不動産記録証明制度の課題

ここまで所有不動産記録証明制度の利点をご紹介してきましたが、利用する上で気を付けなければならない点もあります。
本制度は所有権登記名義人の氏名・住所の情報を基にデータベースから該当不動産が調査されます。
結婚や引越しなどで氏名・住所が変更したが、不動産の変更登記をせずに登記記録が古い情報のまま、つまり「旧姓」のまま、「旧住所」のままの場合、検索結果から該当不動産が漏れてしまい、所有不動産記録証明書に記載されない可能性があります。
もちろん実際の運用時点ではその点についても対策をとられ過去の住所や氏名も含めて所有不動産記録証明書の交付申請をしていく流れになるかもしれません。

この記事を書いた人

souzoku-ad


家族信託・よくあるご質問
家族信託・用語集
このサイトについて
よくあるご質問
用語集
お問い合わせ