『デジタル遺産』有料サブスクとクレカ引き落としの死亡後即時停止術
西村恵子は四十八歳。先月、七十八歳の父が亡くなった。母はすでに他界しており、一人暮らしだった父の遺品整理を、恵子が一人で進めていた。気がかりだったのは、父のスマートフォンだ。画面にロックがかかっていて、暗証番号が分からない。父の誕生日や、住所の番号を試してみたが、どれも違っていた。
葬儀から二か月が過ぎたころ、父宛てのクレジットカードの明細が届いた。開いた恵子は、目を疑った。動画配信が月千四百九十円、音楽配信が月九百八十円、雑誌の読み放題が月五百五十円、クラウドの容量が月四百円。名前も知らないサービスが、いくつも並んでいる。合計は、月に約三千四百円。父が亡くなったあとも、引き落としは続いていた。年間にすれば、四万円を超える。
恵子は、スマートフォンのロックを解除して、サービスを一つずつ解約しようと考えた。ところが、パスワードが分からず、何度か試すうちに、端末が一時的にロックされてしまった。余計に事態を悪くした気がして、恵子は、胸が苦しくなった。解約のメールを探そうにも、父のメールアカウントにも入れない。
困り果てて、カード会社に電話をかけた。担当者の対応は、落ち着いていた。「会員様がお亡くなりになった場合は、ご家族からご連絡いただければ、カードの利用を停止します」。必要な書類として、会員の死亡が分かる戸籍謄本などを、案内された。担当者の丁寧な説明に、恵子は、涙が出そうになった。
恵子は、戸籍謄本などの書類を送って、死亡を届け出た。受付の確認の連絡は、数日後に届いた。カードの会員資格は終了し、以降の新たな利用や、継続課金の請求は、停止された。サブスクの一つひとつを解約しなくても、カードを止めれば、カード払いの請求は、ほぼ止まる。それが、一括停止と呼ばれるやり方だった。恵子は、少しだけ、肩の力が抜けた。
ただし、担当者は、いくつか注意点を説明した。まず、亡くなる前に発生した利用分は、未払いの債務として、相続人が引き継ぐ。その精算は、必要になる。カード会社は、残高の確認方法も教えてくれた。また、カードを止めても、サービス側の契約が自動的に終わるとは限らない。未払いのまま放置すると、督促が届くこともある。
そこで恵子は、カード明細を一枚ずつ見直し、契約していたサービスの一覧をつくった。銀行の通帳の引落し履歴や、父の郵便物も、手がかりにした。父が愛用していた雑誌が、実は電子版で読まれていたことも、そこで分かった。それぞれのサービスに、問い合わせ窓口から、父が亡くなったことを連絡し、解約の手続きを進めた。死亡の確認書類を求められる場合もあれば、返金の扱いが、規約によって異なる場合もあった。
また、父のスマートフォンやアカウントに、勝手にログインを試みることは、サービスの利用規約に反するおそれがあると知り、恵子は、それ以上の操作をやめた。必要な場合は、各サービスの死亡後の手続きに従って、進めるほうが安全だった。
結局、未払い分は約一万二千円。これを相続債務として、恵子が精算した。海外のサービスの一つから、請求のメールが届いたが、問い合わせて解約を伝えると、止まった。
恵子は今、こう話している。亡くなった直後は、サブスクのことまで頭が回らない。けれど、明細は、故人が何を使っていたかを知る、大切な手がかりだった。早めにカード会社へ連絡し、契約を洗い出すこと。それが、二次的な被害を防ぐ近道だという。
学びのボックス
| カード会社への死亡連絡 | 家族から連絡すると、会員資格が終了し、カードの新たな利用や継続課金の請求が止まる。戸籍謄本などの書類が必要になる。 |
| 一括停止の限界 | カードを止めても、サービス側の契約が自動的に終わるとは限らない。未払いのまま放置すると、督促が届くことがある。 |
| 未払い分は相続債務 | 亡くなる前に発生した利用分は、相続人が引き継いで精算する。残高の確認方法は、カード会社に問い合わせる。 |
| 契約の洗い出し | カード明細、通帳の引落し履歴、郵便物、領収書メールなどを手がかりに、契約中のサービスを一覧にする。 |
| ログインの注意 | 故人のアカウントへ無断でログインを試みると、利用規約に反するおそれがある。各サービスの死亡後の手続きに従って、専門家にも相談したい。 |
