[学ぶ・知る] 父の認知症が進む前に、動いておいてよかった[相続のお話]

父の認知症が進む前に、動いておいてよかった

村上哲也(55歳)は、父が入院したという知らせを受けて、久しぶりに実家に帰った。

父の庄三(82歳)は肺炎で入院していたが、命に別状はないとのことだった。ただ、担当医から「認知症の症状が進んでいます。日常的な判断が難しくなってきている」と告げられた。哲也はその言葉を聞きながら、何かが変わったと感じた。

哲也には妹の裕子(51歳)がいる。二人で相談し、父が退院した後の生活をどう支えるかを話し合った。施設への入居も視野に入れていたが、費用がかかる。父の預金で賄えるのか、不動産はどうするのか、考えなければならないことが一気に押し寄せてきた。

知り合いの司法書士に相談すると、一つ重要な指摘をされた。

「お父様の認知症が進んでいる場合、判断能力がないと見なされると、預金の引き出しや不動産の売買ができなくなります。銀行が口座を凍結するケースもあります。今のうちに、成年後見制度の利用を検討してみてください」

「成年後見制度とは何ですか」

「判断能力が十分でない方を法律的に支援するための制度です。家庭裁判所に申し立てをして、後見人を選任してもらいます。後見人は、本人の財産管理や法律行為を本人に代わって行うことができます。施設の入居契約や医療費の支払い、不動産の処分なども、後見人が対応できるようになります」

「家族が後見人になれますか」

「なれます。ただ、家庭裁判所が適切と判断した場合に限られ、弁護士や司法書士などの専門家が選任されることもあります。また、後見人になると毎年家庭裁判所への報告義務が生じます。財産の使い方についても裁判所の監督下に置かれます」

哲也と裕子は、父が比較的落ち着いているうちに動こうと決めた。申し立ての手続きを司法書士に依頼し、数ヶ月後に哲也が後見人として選任された。

後見人になってからは、父の通帳や印鑑を管理し、施設への入居費用や医療費の支払い手続きを代わりに行うことができるようになった。父の口座が凍結される前に動けたことで、施設入居の準備がスムーズに整った。

裕子が「早めに動いてよかったね」と言った。

「うん。もう少し遅かったら、手続きが全部止まっていたかもしれない」と哲也は答えた。

親の認知症は、相続問題とも深くつながっている。口座が凍結されてからでは、日々の生活費さえ引き出せなくなる。判断能力があるうちに財産管理の方針を決めておくこと、そして必要であれば成年後見制度を早めに検討すること——それが、本人にとっても家族にとっても、安心につながる備えだ。

親が元気なうちだからこそ、話し合いを始めてほしい。哲也はこの経験から、心からそう思った。

この記事で学べること



親の判断能力が低下すると、預金の引き出しや不動産売買ができなくなる場合があります。成年後見制度は、判断能力があるうちに準備を始めることが重要です。

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