[相続のお話]『お墓の墓じまい』費用は誰の負担?

『お墓の墓じまい』費用は誰の負担?


祭祀承継者の決定権と、離壇料・改葬費用をめぐる親族との合意形成

佐々木浩二は、父の葬儀の後、菩提寺の住職から静かに切り出された。「浩二さんが、佐々木家のお墓を継ぐことになりますね」。浩二には弟が二人いたが、長男である浩二が祭祀承継者に指名されるのは、ごく自然な流れだった。だが浩二には、その重みを実感する余裕がまだなかった。仏壇や位牌、お墓の管理まで含めて、これからは自分が背負っていくのだという実感は、しばらく経ってからじわじわと湧いてきた。

問題は、お墓が実家から車で三時間もかかる山間の集落にあることだった。祖父母の代まではその土地に住んでいたが、父の代で一家は都市部に移り住み、以来お墓参りは年に一度あるかないかになっていた。境内の墓地は雑草に覆われ、隣の区画は既に無縁墓になりかけていた。石段は苔むし、線香を上げるたびに草刈り鎌を持参しなければならないほどだった。このまま放置すれば、いずれ佐々木家の墓も同じ運命をたどる。浩二は、遠方の墓を維持し続けることの限界を痛感し、墓じまいをして、自宅近くの霊園で永代供養にする決断を固めた。

しかし、いざ弟たちに相談すると、話は思わぬ方向に転がった。「先祖代々のお墓を勝手に処分するなんて」と次男が反発し、三男は「費用は浩二が全部持つべきだろう」と言い出した。日頃から実家に近い次男は罪悪感を感じているようで、遠方に住む三男はどこか他人事のような態度だった。離壇料として寺に包む金額、遺骨を取り出して運ぶ改葬の手続き費用、新しい永代供養墓の使用料。合計すれば決して小さくない金額が、誰の負担になるのかをめぐって、親族会議はたちまち紛糾した。電話越しの言い合いは何度も平行線をたどり、浩二は精神的に疲れ果てていった。

途方に暮れた浩二は、相続関係に詳しい行政書士に相談することにした。「祭祀財産、つまりお墓や仏壇、位牌などは、通常の遺産分割の対象にはなりません。民法897条により、祭祀を主宰すべき者が単独で承継するものとされていて、承継者には墓地や祭祀財産についての決定権があります」。行政書士はそう説明したうえで、こう付け加えた。「法律上、浩二さんの判断で墓じまいを進めること自体は可能です。ただし、法的な権利があるからといって、親族の理解を得ずに進めれば、感情面での対立は避けられません。改葬許可を得るには墓地の管理者の埋蔵証明も必要になりますから、実務上も協力を得ておいたほうが円滑です」。

浩二はこの言葉を受け止め、弟たちに再度声をかけた。今度は決定事項として伝えるのではなく、なぜ墓じまいが必要なのか、費用がどのくらいかかるのか、資料を用意して丁寧に説明する場を設けた。離壇料の相場、改葬許可申請の手続き、永代供養墓の見積もりを一つずつ示すと、次男も三男も、遠方の墓を維持し続けることの現実的な難しさを理解し始めた。最初は感情的だった二人も、具体的な数字と手続きの流れを目にすることで、少しずつ冷静さを取り戻していった。最終的に、費用は三兄弟で等分し、浩二が代表して手続きを進めることで合意に至った。

半年後、佐々木家の墓は無事に閉じられ、遺骨は自宅から通いやすい霊園の合祀墓に納められた。浩二は法律上の権限だけに頼らず、家族の納得を積み重ねたことが、この決断を円滑に進める何よりの支えになったと感じている。祭祀承継者としての決定権と、家族としての合意形成は、別のものでありながら、両方があってこそ後悔のない選択になるのだと、浩二は今回のことで学んだ。

学びのボックス


祭祀財産とはお墓・仏壇・位牌など先祖の祭祀に関わる財産のこと。民法897条により、通常の遺産分割の対象にはならない。
祭祀承継者の決定権祭祀を主宰すべき者が単独で祭祀財産を承継し、墓じまいや改葬など祭祀財産に関する判断を行う権限を持つ。
墓じまいの主な費用寺院に納める離壇料、遺骨を取り出して運ぶ改葬手続きの費用、新しい永代供養墓や合祀墓の使用料などが主な内訳になる。
改葬手続きの流れ現在の墓地の管理者から埋蔵証明を受け、市区町村に改葬許可を申請したうえで遺骨を取り出し、新しい納骨先へ移すのが基本の流れ。
親族との合意形成法的な決定権があっても、費用負担や進め方を資料とともに丁寧に説明し、親族の理解を得ながら進めることが円滑な解決につながる。

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