『生前贈与加算』7年化の現実!持ち戻し期間の計算ミス
延長された4年分の100万円控除枠を見落とした申告ミスから学ぶ正しい計算方法
西村隆之の父・正一は、生前から相続税対策として、隆之に毎年百十万円の暦年贈与を続けていた。年末になると律儀に振り込みを行い、贈与契約書も毎回きちんと作成する几帳面さだった。正一が亡くなったのは、この春のこと。隆之は葬儀を終えたあと、相続税の申告に向けて、これまでの贈与の記録を整理し始めた。長年にわたる父の贈与のおかげで、隆之は住宅ローンの繰り上げ返済を進めることができていた。
隆之が以前から知っていたのは、「相続開始前三年以内の贈与は、相続財産に持ち戻して相続税を計算する」という、いわゆる生前贈与加算のルールだった。父の死亡日から遡って三年分の贈与、合計三百三十万円を相続財産に加算すればいいだろうと、隆之は当初、簡単に考えていた。
ところが、顧問税理士に確認したところ、思いがけない指摘を受けた。「令和五年度の税制改正により、この持ち戻し期間が三年から七年に延長されています。令和六年一月以降の贈与から段階的に適用され、正一さんが亡くなられた時期を踏まえると、隆之さんの相続では七年分の持ち戻しが必要になります」。隆之は青ざめた。三年分だけを見込んで進めていた申告準備が、根本から狂ってしまうことになる。
税理士はさらに詳しく説明を続けた。「延長された四年分、つまり相続開始前四年目から七年目までの贈与については、合計百万円までは相続財産に加算しなくてよいという経過措置が設けられています。単純に七年分をすべて合算するのではなく、この百万円の控除枠を正しく差し引く必要があります」。隆之は、延長された期間の扱いがこれほど細かく定められているとは知らず、慌てて計算をやり直すことになった。
隆之は最初の試算で、七年分の贈与額をそのまま合計してしまい、百万円の控除を適用し忘れていた。そのままの数字で申告していれば、本来より高い相続財産の評価額で申告してしまうところだった。反対に、控除の存在は知っていても、対象となる「四年目から七年目」という期間の区切りを誤って、直近四年分に適用してしまうケースもあると税理士から聞き、隆之は自分の勘違いにも気づかされた。制度の切り替え時期に発生した細かな計算ミスは、税理士の間でも問い合わせが相次いでいるとのことだった。
税理士とともに、隆之は正一からの贈与を年ごとに一覧表にまとめ直した。相続開始前三年以内の贈与は全額を加算し、四年目から七年目までの贈与については合計額から百万円を差し引いた金額を加算するという、正しい計算方法を一つずつ確認しながら申告書を作成し直した。結果として、当初の誤った計算よりも、加算される金額はやや少なくなり、隆之が納めるべき相続税額もいくらか軽減された。
もし気づかないまま誤った申告をしていれば、後日の税務調査で指摘を受け、追徴課税や延滞税を課される可能性もあったという。隆之は、税制改正の情報を早い段階で確認しておくことの重要性を、身をもって痛感した。
この経験を通じて隆之は、生前贈与を活用した相続対策は、贈与を行う側だけでなく、受け取る側もルールの変更を継続的に把握しておく必要があることを学んだ。父が生前に几帳面に残してくれた贈与契約書の記録は、結果として隆之を正しい申告へと導く、何よりの助けになった。申告を終えた後、隆之は自分の子供にも将来贈与を検討する際は、必ず最新の税制を確認するようにと、この体験談を書き留めたメモを残しておくことにした。
学びのボックス
| 生前贈与加算とは | 相続開始前一定期間内の贈与を、相続財産に持ち戻して相続税を計算する制度。相続税逃れの防止が目的。 |
| 持ち戻し期間の延長 | 令和5年度税制改正により、加算期間が3年から7年に延長された。令和6年1月以降の贈与から段階的に適用される。 |
| 延長された4年分の経過措置 | 相続開始前4年目から7年目までの贈与については、合計100万円までは相続財産に加算しなくてよい控除枠が設けられている。 |
| 計算ミスが起きやすいポイント | 100万円控除の適用漏れや、対象期間(4年目から7年目)の区切りの誤認など、制度移行期特有の計算ミスが起きやすい。 |
| 正しい申告のための備え | 毎年の贈与契約書や振込記録を年ごとに一覧化しておくことが、正確な持ち戻し計算と適正な申告につながる。 |
