『登記しないと罰金5万円』相続登記義務化の警告状
経過措置と「相続人申告登記」の緊急避難的活用法
村上恵一が父の家を相続してから、すでに四年近くが経っていた。実家は古い一戸建てで、恵一はそこに住むつもりも売るつもりもなく、ただ物置代わりに時々様子を見に行くだけの存在になっていた。名義変更、いわゆる相続登記についても、「そのうちやろう」と思いながら、仕事の忙しさにかまけて後回しにし続けていた。特に困ることもなかったため、危機感を持つ機会もないまま、月日だけが過ぎていった。
ある日、恵一のもとに法務局から一通の封書が届いた。開封してみると、そこには「相続登記の申請義務について」という見慣れない文言が並んでいた。「令和六年四月一日から、相続によって不動産を取得したことを知った日から三年以内に、相続登記を申請することが法律上の義務になっています。正当な理由なく申請を怠った場合、五万円以下の過料の対象となる可能性があります」。恵一は青ざめた。すでに父の死から四年近くが経過しており、猶予期間はとうに過ぎていることに気づいたからだ。
慌てた恵一は、司法書士に相談することにした。「実は、まだ実家の名義変更をしていなくて。もう過料を取られてしまうんでしょうか」。司法書士は落ち着いた様子で説明してくれた。「令和六年四月の改正は、それ以前に相続が発生していたケースにも適用されますが、その場合は令和九年三月末までに登記すれば過料の対象にはならないという経過措置が設けられています。まだ間に合いますので、まずは落ち着いて手続きを進めましょう」。恵一はほっと胸をなで下ろした。
ところが、いざ手続きを進めようとすると、新たな壁にぶつかった。恵一には弟がおり、遺産分割協議がまだ正式にまとまっていなかったのだ。弟とは疎遠になっており、連絡を取るのも一苦労だった。「協議がまとまらないと、相続登記自体ができないんですよね」と不安を口にする恵一に、司法書士は思いがけない選択肢を教えてくれた。「そういう場合は、『相続人申告登記』という制度を使うことができます。これは、自分が相続人であることを法務局に申し出るだけで済む簡易な手続きで、これによって相続登記の義務を一旦果たしたものとみなされます」。
「本来の相続登記のように、不動産の権利関係を確定させるものではありませんが、過料を回避するための緊急避難的な措置として、まずはこの申告登記を済ませておくことができます。その間に、弟さんとの遺産分割協議を並行して進めていけば大丈夫です」。恵一は、この制度のおかげで、焦って弟と揉め事を起こすことなく、時間をかけて話し合いを進められる余裕ができたことに安堵した。必要な書類も、戸籍謄本など最小限で済むと聞き、恵一はますます気持ちが軽くなった。
恵一は司法書士のサポートを受けながら、まず相続人申告登記の手続きを済ませ、義務違反による過料のリスクを回避した。その後、数か月かけて弟と丁寧に連絡を取り合い、遺産分割協議もようやくまとまりに近づきつつある。協議がまとまり次第、正式な相続登記へと切り替える予定だ。
この経験を通じて恵一は、「そのうちやろう」という先延ばしが、思わぬ形で法的な義務違反につながりかねないことを痛感した。相続した不動産の名義変更は、後回しにせず早めに着手することの大切さを、恵一は身をもって学んだ。恵一は職場の同僚にもこの経験を話し、実家の相続登記をまだ済ませていない人が周囲に何人もいることを知り、自分の体験を伝えて回るようになった。
学びのボックス
| 相続登記の義務化 | 令和6年4月1日から、相続で不動産を取得したことを知った日から3年以内に相続登記を申請することが法律上の義務になった。 |
| 過料のリスク | 正当な理由なく申請を怠ると、5万円以下の過料の対象となる可能性がある。 |
| 経過措置の内容 | 施行日より前に発生していた相続についても義務化の対象になるが、令和9年3月末までに登記すれば過料の対象にはならない。 |
| 相続人申告登記とは | 自分が相続人であることを法務局に申し出るだけで済む簡易な手続き。これにより相続登記の義務を一旦果たしたものとみなされる。 |
| 協議が整わない場合の活用 | 遺産分割協議がまとまらない場合でも、まず相続人申告登記を済ませて過料を回避し、その間に協議を進めることができる。 |
